第42期 #31

夕陽

 西へとまっすぐ伸びたレールの上をひた走る列車は、まるで夕陽に溶け込んでいくかのように見える。
 
 薄く引き伸ばされた影を落とすホームの上ではおそらくはつがいだろう二羽の鳩が、列車が通り過ぎていくのもそ知らぬ様子で人目はばかることなく睦ましく戯れていて、春には生まれるだろう雛の囀りさえ聴こえて来るようだった。
 線路の両側に立ち並んだビルや家々は内に思惑を秘めながら、列車を見送るように頭を垂れ、列車が通り過ぎてしまうと、何ごともなかったかのように素っ気無い普段の顔に戻り、あとはただ夜が訪れるのを待つ。
 架線にパンタグラフをこすりつけ、車輪が力強くレールを蹴り、列車は西へ、西へと急くように走っていく。その性急さは、どこか滑稽ですらあったのだけれど、その懸命さを笑うわけにはいかない。
 市街を脱し、夕映えのする田園を抜け、西のいや果ての淵まで来た列車を、輪郭を失い大きく広がった夕陽が迎えた。昼の猛々しさを失ってはいても未だ列車を圧する夕陽は、地平に沈む前のほんのひと吹きの吐息で、ようやくたどり着いた列車をすっかり溶かしてしまった。
 ドロドロとだらしないように溶けた列車は、夕陽の沈んでしまったあとの夜の冷気で冷まされ、西へと伸びるまっすぐなレールとなる。

 夜があければ、日の出ともに新たな列車が、夕陽を目指しまた走りだす。



Copyright © 2006 曠野反次郎 / 編集: 短編