第41期 #18
路情
」
置き去りにして走り出す。彼女とはこれきりだろう。これきりにしよう。俺は結局停まれない。鉄の棺で走り続けるるしかない。彼女とは住む世界が違う。
携帯が鳴った。アクセルを踏む。加速。電波の途切れる速度まで加速加速。
パッシングでコンビニ車を呼ぶ。コーヒーと、年々まずくなるおにぎり。フィルムに書かれた文字はニイガタ。嘘八百もいいところ、新潟は海の底だ。やっぱり米だけは日本人が作らないと駄目だろう。
農地でいい、日本人が土地を持つのを侵略と言わない国はないか。あの外交を取り返す機会はないか。携帯が歌い始める。手探りで電源を切った。
ガムもいかがですか。ありがとう、でもいらない。サイドランプで言い捨てて加速する。給油車を追い抜く。路面、カーブ、先行併走対向車。加速。透明な瞬間の連続。メンテ車、エステ車、業務車両を次々に追い抜いた。
眠らずに走り続けて国境を越える。
子供たちのレースに混じって惨敗。うっかりヤクザの装甲車を追い抜いて半日追いかけ回され……山道に潜り込めたのは幸運だった。
たまに友達と併走した。
無茶してるらしいね。まあね。例の彼女、どうしたの? 別れた。だから日本人にしとけって言ったろ? ほっといてくれ。側灯は雄弁に語る。さまよう日本人は光で会話する。
日本は沈んだ。俺達は走り続けるしかない。
一ヶ月ばかり過ぎた。俺を追う車の噂を聞いた。ピンクのイタリア車。自動走行せず、とんでもないスピードで走り続けているという。ヤクザだろうか? それとも、ただの路上伝説。
追いつかれ、ルームミラーで確認するまで信じられなかった。
彼女だ。
必死に運転しているのは彼女だった。
暴れるハンドルをかぶさるようにして押さえ、併走しようとしている。俺はアクセルを緩めた。追いかけてきたのか。側灯で問う。彼女は飛び切りの笑顔。たどたどしく明滅するランプ。わたし、あなた、車。言葉がつながらない。
更に速度を落としてウィンドウを下げた。彼女もウィンドウを下げる。左ハンドルの彼女は驚くほど近い。
風に負けない声で、叫ぶ。
「