第41期 #16

糸蒟蒻とNHK

「ヤスオ、肉がない。お前全部食ったな」
「何? ふざけんなヨシキ。…こら、箸で鍋をかきまわすな」
「俺が自慢の四十インチプラズマテレビをうっとり見てた隙に、よくも」
「どれが? 先月ゴミ捨て場から拾ってきたオンボロ十四インチじゃないか。じゅうよんインチ。それも音しか出ないし」
「NHKに受信料払ったら映るかな」
「捨てろ。手回しチャンネルのテレビなんて、家電リサイクル法も時効だろう」
「そうかなあ」
「そもそも始めっから肉なんて入ってなかったじゃないか。『材料はある、土鍋持って来い』なんて言って、お前のアパート来てみりゃ糸蒟蒻と野菜の切れっ端だけしかねえし」
「材料があるとは言ったけど、全部揃ってるとは言わなかったぞ。そこで気を利かせて持ってくるのが友達だろ?」
「どこにも気の利かせようがないだろ? どうするヨシキ。この悲哀に満ちた糸蒟蒻鍋を」
「命名、しょんぼりラーメン」
「命名しても事態はちっとも変わらないよ」
「訪問販売で糸蒟蒻なんて珍しくて、つい」
「なま物の訪問販売なんて随分放埓だなあ。普通、訪問販売って、やけに高い健康食品とか壺とか売ってるものなんじゃないの」
「その考え方もどうかと思うけど…そうそう、ラッパ吹いたりして、じいさんがふらふら自転車で。なんだか懐かしくてさあ」
「今時豆腐屋の行商か! 豆腐屋が糸蒟蒻も売るのか! それに何で豆腐を買わない! あーもうどこにツッこみゃいいんだ!」
「集金とか行商とか、最近何か気になるんだよね」
「もう気にするなよ」
「優しいなあ。もっと甘えさせてくれよ」
「気色悪い…うわ、寄るな、やめろ。すまん、俺が悪かった。ごめんなさい。あー、吸わないで〜〜」
「ヤスオも早く彼女作れよ」
「お前にだけは、絶、対、言われたくない」
「仕事もちゃんと探してさ」
「お前もな」
「あれ? 何と、こんなところにフカヒレが」
「さっきから一体誰に見栄張ってんだよ。それはお前が『味の賑わいに』って放り込んだキンピラゴボウじゃないか」
「似てないか」
「かすりもしない。もう我慢できん。俺は行くぞ」
「きれいに使ってくれよ。うちのは最新型のウォッシュレットで」
「詰まって水も流れない。肉を買いに行くんだよ」
「心の友よ。出かける前に地下のワインセラーからワインを…」
「酒も買えってか! 発泡酒で我慢しろよ。それと糸蒟蒻残とけ」
「待てないかも」
「食っちまったら俺は帰る。後はNHKの集金人と茶でも飲んでろ」



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