第40期 #8
俺、真田左衛門佐信繁。秀頼公に請われ大坂の陣に参戦し獅子奮迅の活躍。だが徳川の兵力を前に窮地に陥った豊臣方は、いよいよ最後の勝負をかけることになった。
らしい。
「いや、知らないんだけどそんなの」
目が覚めたら大坂城なので驚いた。やっと部下の高梨君から話を聞いたところだ。
「でも俺そんな事してた気もする」
「一年も夢遊病だったのですか?」
「バカな。でも俺入城断ったよね?それは覚えてるよ」
「ええ。でも気が変わったと使者を呼び戻したじゃないですか」
「そうだっけ?」
ん、何か引っかかる。
「使者を帰した後誰か来たよね?」
「そういえば。はて、誰でしたか…」
確かに誰か来た。誰だ?
「高梨様、望月様がお呼びです」
と、小姓が呼びに来て高梨君は出て行った。俺は布団に転がった。この異常事態に関係ある気がするが、誰なのか思い出せない。
「寝てんじゃねぇよ」
天から声が降ってきた。聴き慣れた声だ。
「佐助か!」
「久しぶりだな源二郎」
天井板が外れ、あの日訪ねて来た顔が出てきた。幼なじみの忍者、佐助だ。
「お前か!俺に術かけてただろ」
「気づいてももう遅いわ」
「何のつもりだ、一年も俺を操って。嫌がらせか?」
「否、復讐さ」
佐助は笑みを浮かべた。
「やはり覚えてないか。凜ちゃんの事だ」
若い頃の遊び友達の名だ。
「あー、一緒によく遊んだな」
「遊んだじゃないわ!」
佐助は怒鳴った。
「お前は俺が彼女を好きだと知りながら、領主の息子の権限で彼女を奪ったんだ!」
「何を言う。お前その前に振られてただろう。」
「振られとらん!」
「振られた」
「こいつ。まあよいわ、お前は徳川に呑まれて死ぬんだからな」
そんな理由で…
「殺すだけなら容易いがそれではつまらん。この戦でお前が生き延びれば許してやる」
佐助は得意そうだ。
「お前、頭悪いだろ」
「今のうちにほざいておけ」
と、佐助は消えた。
城内では諸将や他家の足軽までも俺の武運を頼っていて逃げ場もなかった。まあ良い。俺も乱世を戦った武将だ。腹を括ろう。
俺、猿飛佐助幸吉。真田十勇士の筆頭として真田幸村の手足となり、変幻自在の活躍をした忍者だ。
俺が奴の手足だと?
意外と奮闘した源二郎は死後英雄扱いされ、そのまま四百年経っても英雄のまま。悔しい。俺はこんな思いをするために修行を積んで仙人にまでなったわけじゃない。
バカだ、俺は。だから凜ちゃんも奴を選んだのか。四百年経ってやっと気づいた。