第40期 #9
どことなく薄汚れた病室のベッド、まさしく虫の息といった風体で横たわっている男……それが、俺。
不治の病にかかり、残る命はあとわずか。身体中の皮膚という皮膚には、始終針で引っかきまわされているかのような不快な痛みがつきまとい。
死に際に瀕しても、見舞いに来てくれる家族や友人もいない。当の昔に金を持って逃げ出しやがったのだ。
「くそったれ……このまま死んでたまるかよ」
毒づく。悲しみを、怒りを、憎しみを。思いつく限りのありとあらゆる負の感情を込めて。
気づく。寂しさに、虚しさに……愛や優しさに飢えていることに。
……死にたくない。
思い出したように浮かび上がってくる感情を前にして、ふと気づくと涙があふれてきた。
「お困りのようですね」
不意に、声。その存在は、空から降ってきたように突然現れた。
動かぬ手でどうにか涙を拭い、俺は眼前に浮かぶそれを見据える。
妖精……なのだろうか? 体長三十センチくらい。正体不明の樹脂で作られた衣服に肢体を包み、背中には光の粉を散りばめたようにきらめく羽。俺のイメージとは少し違うが、まあ一般的な妖精。
理解する。
「ちっ、死の縁の幻覚というやつか……」
だが、俺にしてはメルヘンチックすぎないか?
幻覚か本物か、とにかく奴は俺に話しかけてきた。
「あなたの叶えたい願いを、三つ言ってください」
うざったい……
「俺の前の幻覚妖精を、ひっつんで、放り捨てて、最後の時を静かに迎えたい」
「私は本物ですよ……真面目に答えてください」
妖精は不機嫌そうに頬を膨らませた。まるで子供だ。……いよいよヤキが回ったらしい。
「なら証拠を見せてみろ、あんたが幻覚じゃない証拠を」
一瞬のきょとん顔、すぐさま小さな胸を張る。
「いいでしょう」
おもむろに空中で踊り出す妖精。その軌跡にそって光の粒が広がり、宙に浮かぶ一つの絵を、七色に光る花吹雪を描き出した。
よくわからないが、普通に考えれば幻覚も夢と同じように見る者の深層意識の現れなのだろう。
しかし、俺にこんな神々しいとさえ思える光景を思い描ける想像力があるとは思えず。
これは……本物? ……だとしたら願いは決まっている! 神は俺を見捨てていなかった!
「命と、友と、金をくれ!」
妖精は、聖女のごとく、美しい、見る者を安心させる笑みを浮かべた。
「アンケートにご協力、ありがとうございました〜」