第40期 #10

胡乱妖精

 洗面所で汚れた靴下を洗っていたら排水口から妖精が出てきて「何かひとつ願い事を叶えてあげます」というものだから、靴下をきれいにしてほしいと言ったらひどく悲しい顔をされました。
「なんか他のないっすか」
 他の と言われてもあいにくと願い事など思いつきません。けれどもいかにも悲しげな妖精を少々可哀想に思った僕は、何か楽器を奏でられるようになるといいなあ と言いました。僕のその言葉を聞くなりものの一秒で元気を取り戻した妖精は、晴れやかな顔で胸を叩きました。
「わかりました。要するに、何かひとつ楽器の才能を伸ばせばいい訳でしょう」
「といっても、法螺を吹くのが上手くなるだとかはやめてくださいよ」
「承知の上です」
「口三味線が達者になるだとかもやめてくださいよ」
 妖精は、再びひどく悲しい顔をしました。



Copyright © 2005 神藤ナオ / 編集: 短編