第40期 #11

空飛ぶ犬を見た

「空飛ぶ犬を見たんです。」
 まっさらな日の入る白い部屋。
「灰色の空にまるでそこが地面であるかの様に足をつけて歩いていたんです。不思議だなと思ってみていたら知らない人が『何をしているんだ?!』って。だから私は『空を見てるんです。』って答えたんですよ。視界を遮る物が無くって上を見上げていたんだから空を見上げていたに決まっているのにね。おかしいですよ。だから笑っていたら『とにかく動くな!』って言うんです。私は空を見ていただけなのにどうして彼がそんな変な事を言ってくるのか分からなかったんです。私をいじめに来たのかな?とか考えていたんです。そしたら答えを思いつきました。彼も空を飛びたかったんですよ。私も空を見上げていて飛びたいって思っていましたから。だからね、私はその願いを叶えてあげようと思ったんです。空が飛べるようにそっと近づいてきた彼を空に向かって押してあげたんです。」
「父は飛べましたか?」
「あら、あなたのお父様だったんですか。はい、一瞬で空へ飛んでいきましたよ。彼に空を飛ぶのはどんな風だったか聞きたかったのですが、その後すぐに違う知らない人に捕まえられてしまって。それに、沢山人が集まってきてこの部屋に閉じ込められてしまったんです。こんな事になるんだったら私も先に飛んでおけばよかったと思っています。彼はどうしてるんでしょう?彼と話が出来ますか?」
「いえ、もう無理でしょう。」

同じ白く日の入る部屋、テレビからニュースが聞こえる。
「昨日某デパートの屋上から男性従業員が女に突き落とされるという事件がありました。容疑者とみられる女は精神鑑定を受け責任能力無しとされ警察病院に収容―」
「まぁ、怖い世の中になりましたね。犯人の女の人は一体何を思ってやったんでしょうね?」
「さぁ、私には全く分かりませんよ。」
「ですよね。ところで、私はいつここから出られるのでしょうか?彼と空はどうだったか話ができないのなら私も空を飛びたいんです。」
「分かりました、屋上へ案内しますよ。」



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