第38期 #19

 人から縄を貰った。首を括るには少し長すぎるように思えたので、恋人を縛ってみることにした。気分を出すためにまず目隠しをしてから縛り始めた。どうやら恋人には素質があったらしく、普段はひどく冷たい肌がすぐに火照り始めた。「身体、熱くなってるよ」と言うと、少し身を捩って、可愛らしく頬を赤く染めた。後ろ手を縛り終えると、恋人はそうするのが当然のように、脚をM字に開いて、蹲踞の姿勢になった。僕はベッドを降り、床に正座して恋人を見上げた。亀甲の模様を形づくった縄が軽く肌に食い込み、やや乱れた髪が黒い目隠しの上に垂れ、唇をやや開いて俯いているその様子は、いやらしいとか滑稽だとかいうのでなく、不思議な尊厳さみたいなものがあって、そう、まるで仏像のようだった。
 ほとんど恍惚として見上げていると、唐突に恋人が「あ!」と声をあげ、ピュっと、僕の両頬に水みたいなものがかかった。なんだろうと訝しく思う間もなく、再び恋人が「ああ!」と声をあげると、僕の頬はまた何かに濡れた。見れば、恋人の大事な処から水流が迸っていて、食い込んだ縄が、ちょうど水流を勢いよく二分しているのだった。恋人はもうとまらなくなってしまったようで、「あ! あ!」と声をあげながら、僕目掛けて放水し続けた。尿というには透明で匂いのないその少ししょっぱいような液体を僕はほとんど敬虔といえるような気持ちで浴び続け、耳や鼻や口から、身体のなかに這入ってくるに任せた。やがてそれは僕の身体のなかで、如来や菩薩と姿を変え、経文を唱えながら僕の身体を駆け巡っていった。経文は仏の口から出ると漢字や梵字となり黒い筋のようになってゆらゆらと仏のあとに棚引いていた(如来の口からは梵字が、菩薩の口からは漢字が出てくるようなのだけど、何故なのかは僕にはわからない)。
 不意に痛いくらいに勃起していることに気がつくと、激痛のような快感が背を駆け抜け、ドピュっと射精した。床に零れたその精液のなかから、大日如来や弥勒菩薩が次々に這い出してくると、経文を唱えながらゾロゾロとベッドに這い上がっていき、恋人の股間に食い込む縄の隙間から恋人の身体のなかに這入っていってしまった。目隠しをされたままで、何もわからないであろう恋人は突如侵入してきた異物に、「あ! 」と切なげに声漏らし、勢いよく放水した。それをもろに受けた僕は堪らず、「昇天! 昇天!」と叫んで、また射精した。



Copyright © 2005 曠野反次郎 / 編集: 短編