第36期 #17

コットンワンピース

 彼女4万もするコットンワンピース着てた。淡いブルーでふわふわの、すごくかわいいやつだ。俺は仕事で、彼女は大学で忙しくて、だから久しぶりのデートで、彼女にこにこしてて、俺もなんでもないことなのにものすごく、楽しくて。
 公園口の改札を出て、ティッシュ配りの人たちをかわして、マルイの角で曲がって。昨日の雨で風がしめっていて、春の午前の日陽しがすがすがしくてなんだかいい気持ちになって。でも彼女寒いって言うからサンタモニカでアメリカ古着の、紺のスクールカーディガン買ってあげた。
 階段を下りて井の頭公園に入ったら、まだ土がぬかるんでて。彼女ツモリチサトの爪先が丸い革靴を履いていて、汚れるのが嫌だと言うから、むげん堂で茶色のスリッポンを買って履かせてあげて。そうしたらワンピースと色がぜんぜん合わなくて。でもそれがとてもおかしくて、二人して笑った。彼女「ありがとう」って言ってくれたけど、でも彼女、すごくかわいい靴だったから履けないの残念がってて。
 すこし散歩して、するとジブリの巨神兵が青空の中に見えてきて、ふいに彼女「行きたかったな」なんて言い出したから、今日は急に平日に休みがもらえたんだからチケットがあるわけないし、だから俺は「しかたがないよ」って。そうしたら彼女すねたのか無口になって。かと思うと、急に明るい声で「お茶にしよう」って言った。
 公園抜けてカフェに入ったら彼女「いつ仕事辞めるの?」って突然聞いてきて。俺は小さな会社でやっと頑張れているのに、「辞めるのなんて無理だよ」って言ったら、「じゃあいつ鎌倉に住むの?」って俺をひどく困らせて。
 彼女それから理想を口にした。「お金なんていらないでしょ? 家もいらないでしょ? 洋服もいらないでしょ? 食べるものは必要なだけでいいんでしょ? ふたりでいっしょにいられればいいんじゃない?」って。俺が塞ぎこんだら彼女、「やりたくもない仕事なら辞めたら?」ってひどい言葉でなじった。
 そして世にも残酷な顔してカフェモカすすった。「あなたは、私が働いてないから分からないと思ってる」
 暑くなったのか、俺のあげたカーディガンを彼女脱いで、そうしたらタグに”Robert”って名前がマジックペンで書かれてて。「これロバートさんのだから返してきて」って彼女、俺の目の前にカーディガンを突き出してきた。「アメリカまで行って、返してきて」



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