第35期 #8
「最近の若い人は宇宙人に興味ないのかなあ。昔はテレビでもね。矢追純一、知ってる?」
「いいえ」
「えーうっそ。宇宙人は地球に来てるんだよ。日本にも。住民票取って普通に暮らしてるんだよ」
「はあ」
洗井君は会社の後輩でなかなか見所があるので居酒屋で一杯奢ってやってるわけである。
「ぼく先輩と部署が違うじゃないですか。なんでこうしつこく誘われるのかなと」
「いやなら断ればいいじゃん」
「断りづらいですよ。先輩、粘着質だから、後で何されるか不安だし」
「シャーロック・ホームズも粘着質だよ」
「だからなんですか」
「君ね、知らないようだけど、ぼくは営業マンとしてすごいんだよ。F社と最初に大口契約取ったの、ぼくなんよ」
「知ってますけど、もう五年以上も前の話でしょ」
「何年前とかじゃなくてね。企業の基本は営業だから」
「うち技術系ですけど」
「いやだから。技術者こそ生え抜き不要なんだよ。どんどん技術の流行が変わるご時世で、結果、レガシー技術社員の在庫が不良債権化するわけよ。そして顧客ニーズと全然噛みあわない企画ばかり出して、売れないのは営業の努力不足だとかさ。わかってないんだよなあ。そのくせ愛社精神だけは旺盛でさ。石にかじりついてもやめないからね。そして内輪だけで通用する技術スキルが何級だとかさあ。そんなこと顧客にとって何の意味もないんだよ!」
そんな洗井君であったが、最近急に付き合いが悪くなった。彼女ができたらしい。彼女は美容師をやっているという。私はその美容院に行ってみた。一目見て、私は彼女が宇宙人である可能性が高いと直感した。実は私は直感的に宇宙人を見分ける能力があるのである。彼女は何らかの宇宙的陰謀によって洗井君に接近したらしい。私は洗井君を一人暮らしの自分のアパートに呼んで、UFOの研究資料を見せ、それとなく危険を示唆したが、彼はまったく取り合わなかった。飲みに誘っても露骨に断るようになった。
そんなある日、交通費清算のため経理部に行くと、洗井君が休んでいて、代わりに新人の女の子が受付けた。
「心配だな」
「ただの風邪だそうですよ」
「しかし……」
「なぜ先輩は洗井さんばかりえこひいきするんですか」
「うむ。実は宇宙的な問題があるんだよ」
「たまには私も奢ってください」
「いいけど」
「私、UFOの話、好きなんです」
そう言って彼女はにこっと笑った。その瞬間、私は直感した。彼女が本当の宇宙人かもしれない。