第33期 #24
ジョッキを傾けて、ナナはビールを飲んでいる。白い泡が気持ちよさげに揺れている。ゆっくりと液体が減り続けている。そうした様子を見ていると、僕も不思議とうれしい気持ちになってきた。久しぶりの再会で、店に入る前は少し緊張したのだが。場所はチェーンの居酒屋。
やがてナナはジョッキを置く。滑らかに、
「堪らないねえ」
と口にする。
「こうして堂々お酒が飲めるなんて」
「高校の時だって十分ナナは飲んでいただろ?」
「いや、あの時みたいにコソコソ飲むのとは違うんだって」
ナナは僕を見た。覚えているでしょう、という目で。ナナの大人びたセミロングとアクセサリにドキドキしながら思う。イナカの高校時代、二人きりで向かい合って飲んだことなんてなかった、と。隣ではスーツを着たオヤジたちが出来上がってしまっている。
僕らは近くに住んでいたので、仲間と飲酒した後は大抵一緒に帰った。
ナナが言う。
「うちって厳しかったから、バレると大変だったんだ」
「どこの家でもそうだと思うよ」
「あの時、いつも二階から直接入るの手伝ってくれたよね」
よくやっていたなあ、と僕は思い出す。自転車と僕の肩を踏み台にして、制服のまま毎回ナナはベランダまで登っていったのだった。そして自分の部屋へと侵入していた。
「あれ本当にバレてなかったの?」
「さあ。次の朝、念入りに消臭スプレーかけてたし」
「それ、あからさまじゃん」
僕の言葉につられてナナが明るく笑う。
昔をネタに話し続けた。ナナが浪人して今年こちらの大学に入ったのに対し、僕は現役だったからイナカの情報に疎くて。
「で、あの二人結婚するんだって」
ナナはやっぱり女子だ。噂を話す時はいきいきしている。
「できちゃったんだって」
「ふーん」
「何か他に反応ないわけ?」
一体僕にどうしろと?
突然、横のオヤジの一人が入り込んできた。
「彼女カワイイねえ、ちょっとお酌してくれないかなあ」
ナナはのけぞった。首元でチェーンが揺れる。そのまま固まってしまった。隣では真っ赤な目のネクタイ野郎達がにやけている。
「いいじゃん彼氏、減るもんじゃなし」
次々と卑猥な言葉を投げかけられる。僕は立ち上がってナナの手を取った。奴らを黙らせたかったが、ナナの不安げな様子を見てぐっとこらえる。ナナが手を握り返してくる。カチッ。何かが僕の心の中でかみ合った!
ナナがこちらを見ている。僕はまっすぐに、まっすぐな視線を受け取った。