第31期 #26

プルシャに会いに行く

 全てがひとつである。全てがひとつづきである。過去も未来も含め、全てひとつづきである。まったくそのとおり。たいていの宗教や思想書で語られるとおりである。それ以外の理解などありえない。普通に考えていたらそれ以外の答えなどありえない。全てがひとつづき。まったくなんとうっとおしくなんと退屈なことか。
「おとうさま、おとうさま、おとうさまあ」
 娘が花を散らしながら駆け寄ってくる。
「おとうさま、花園でてふてふを集めるのは、もう飽きましたわ」
 娘はそう言うと私の前で手を開く。ばらばらになった蝶々の色とりどりのかけら。
「そうだね。じゃあプルシャにでも会いに行こう」
 私は娘の頬に手を取り、口づけをする。あ、と娘は吐息を漏らす。唇の中に舌をこじ入れ口中をまさぐる。娘は私を強く抱きしめる。幼くとも官能を知っているのだ。私が教えた。私が教えられることは全て教えよう。
 道は全て花に埋もれている。ユリ。カーネーション。バラ。さくら。ひまわり。パンジー。舞い散る花びら。花吹雪。様々な、多種多様な、数え切れない花々に、景色は燃えているかのようである。
「やあプルシャ、久しぶりだね」
 プルシャは絵を描いていた。私の声に体をびくりと震わせ、こちらを向く。上半身が裸で、豊かな胸が絵の具で汚れていた。
「そんなにびくびくするなよ。君と私の仲だろう?」
「あ、う、う」
「なあ、踊りでも踊っておくれよ」
「う、あう、うぅ」
 プルシャはうつむいたままふるふると体を動かし始める。
「それが踊り? それが君の踊りなのかい? 楽しそうだね」
 窓の外では全てが燃えていく。めらめらと音を立てて花が灰になり、風に消える。誰かが火を放ったのだ。おまえかきみか、ぼくか、あなたか。誰かが火を放った。
「おとうさま、ほら、てふてふ」
 私の目の前で手が開かれる。色とりどりの炎のかけら。
「ああ、そうだね」
 娘の燃える髪に私は口づける。
「私達は、消えていくね」
 プルシャは何も答えない。
「私達は消えていく。そして、それでも私達は残るね。私達は残される。いつまでも。過去からずっと、私達は残されている。私達は残されつづける。プルシャ、いつまで踊っているんだ、もうやめろ」
 プルシャは踊りをやめ、絵のかかっていたイーゼルをがしゃんと倒し、棚から皿を取り出した。皿にはハンバーグが載っていて、プルシャは手づかみでそれを食べ始める。豊かな胸が、食べかすに汚れていく。



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