第30期 #14

『パパはミサイルパイロット』

 ぼくのパパはミサイルパイロットです
 学校の先生がおしえてくれました。むかしは、ミサイルはコンピュータで方向を決めていたんだけど、コンピュータがくるっちゃうようになって、ミサイルは兵隊さんが運転するようになりました。
 ミサイルのパイロットはとってもむずかしくって、ミサイルパイロットになりたくっても、むずかしい訓練とか試験を合格しないとだめです。
 ぼくはパパがずっと勉強していたのをしっています。あと毎日、公園のティーカップでぐるぐる回っていたのもしっています。
 だから、パパがミサイルに乗れるようになったとき、ぼくもとってもうれしかったです。
 ぼくも大人になったら、パパみたいに立派なミサイルパイロットになりたいとおもいます。


 大陸間弾道有人ミサイルが蒼空を駆ける。圧し掛かるGが搭乗員の肋骨を軋ませ、内臓を押しつぶす。だが致死量をゆうに上まわる覚醒剤が痛みを忘れさせ、神経を研ぎ澄ませる。人生のすべてが濃縮された五分間――ぬるま湯につかったような世界はすべてがスローモーション。
 成層圏から急降下するミサイル群に妨害電波が襲いかかって、並走していた電子制御ミサイルがバランスを崩し、空気抵抗に飲まれる――そのまま真っ二つに折れて爆発。だが有人ミサイルは止まらない。迎撃ミサイルもレーザーの逆さ雨も、発狂寸前のミサイルパイロットにとってはビデオのコマ送りと同じだ。
 ついに最終迎撃空域を突き抜けたミサイルが、敵国首都圏に突き刺さって散華した。


 今日は、政府からあたらしいパパがやってきました。こんどのパパはおひげをはやしていて、背の高いパパです。ぼくが「パパはミサイルパイロットになるの?」ときいたら、「背が高すぎて無理なんだ」といいました。
 がっかりです。
 でもママがうれしそうだったから、ぼくはがまんします。


 有人ミサイルの搭乗員になるのは、おもにアジアや中東からの移民系だ。サービス業にまでロボットが進出するようになった昨今、就職も生活給付金も絶望的な彼らは、最後の希望を求めてミサイルパイロットに志願する。
 パイロット志願者は訓練期間中の寝食を保証されるし、わずかながらの給料もでる。そしてなによりも――どうせ死ぬのならば祖国で死にたいと考える者が多かった。


 ぼくも大人になったら、まえのパパみたいに立派なミサイルパイロットになって、おじいちゃんとおばあちゃんに会いにいきたいとおもいます。



Copyright © 2005 橘内 潤 / 編集: 短編