第3期 #5

記憶

「男は思い出だけで生きられるんだ。」
モンクはコンビニの雑誌コーナーでエロ本の立ち読みを注意されるとそう叫んだ。彼の充血した顔は彼の海綿体も相当充血していることを示していた。モンクはエロ本を破り捨て店長に投げつけた。危険を感じた店長は護身用のナイフとロープでモンクに襲いかかり亀甲縛りにした。どちらかといえばMなモンクは店長に暴言を吐きながらも縛られやすいように手を貸していた。
「くそ!変態店長め。俺をどうする気だい?」
「どうするもこうするもないよ!このメス豚がぁ!」
店長の蹴りはモンクの内臓を夏の日の少年のスイカのように、赤い部分を全然残さないほど深くえぐった。モンクの口には酸っぱいものがこみ上げてきた。初恋の友恵ちゃんである。
「さて、汚いお前を私の聖水で清めてあげよう。二度とエロ本を立ち読みするなんて行為はできなくしてやる!」
店長の社会の窓からひきこもり5年は経過しているポコチーナが久々のシャバの空気を浴びていた。モンクは思った。相手のことを愛しく思うことが大事だが、それ以上に伝えることのほうが大事であるということを。
「プリンセステンコー!」
モンクの叫びと共に眩い光がさした。一瞬にしてモンクと店長の立場が入れ替わった。店長は亀甲縛りにされ、モンクの充血した海綿体を見上げている。
「待て!それは聖水じゃない。黄金水じゃないぞ。エロ本ならくれてやる。止めてくれ!」
モンクはデニーロばりに不敵に笑った。
「男はなぁ、思い出だけで生きられるんだ。」
モンクの海綿体から賑々しくも厳かに僕らの勇気は飛び出した。



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