第273期 #2

現代アート

保育園経営の友人が、少子化のせいで破産した。
彼は私を居酒屋に呼び出した。慰めてほしいのかなと思って、私は付き合うことにした。

座ってしばらく世間話をしたあと、彼は突然こう言った。
「現代アート学校を開く予定だ。」

え?と思った。現代アート学校って儲かるのか、と。

彼は真顔で続けた。
「少子化にAI革命。これから人間が働ける領域ってどんどん減る。でも、時間は余る。だったら、その時間をどう潰すかが次の課題になる。そこで現代アートだ。」

なんで?と聞くと、彼は迷いなく言った。
「働かなくていい。でも、何かはしたい。誰かに見てほしい。価値があるのかないのかわからないものを、価値あるものとして扱う。その遊びが、社会を回す仕組みになる。現代アートはその象徴だよ。」

私は笑いかけて、それから言葉に詰まった。
彼の言うことは、馬鹿げているようで、どこか本質を突いている気がした。

「でさ」と彼が続ける。「たぶん、最後に残る“仕事”って、アートなんだよね。いや、“暇つぶし”そのものが、人間の本業かもしれない。」

私はグラスを傾けながら、ふと考えた。
人間は、何も生み出さなくても生きられる時代に突入しようとしている。
それでも何かをしたがり、意味のないことに夢中になる。
――それが人間なのかもしれない。

文明って、きっと暇つぶしの連続なのだ。

原始の火も、ピラミッドも、月面着陸も、もしかしたら全部――
暇だったから、始まったのかもしれない。

そう言うと、彼は少し笑って、空を見上げた。

「違うよ。始まってたんだよ、ずっと前から。
俺たちの社会そのものが――最初から“現代アート”だったんだ。」



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