第27期 #7
もうこんな時間だよ。急がなきゃ。大きく肩に背負ったボストンバックが動きをさえぎる。どけ、どけ、どいてくれ。電車の来る時間までもう一分とない。改札機さえ邪魔くさい。俺が階段を上り終えたとき、鉄の塊は再び動き始めた。
ああ・・・。
頭の中を絶望が支配した。次に浮かぶのはこれから自らの身に起こるのであろう精神的苦痛とプレッシャー。次の電車に乗り、椅子に座り、いつもの人間観察を始める。人間観察とは聞こえが悪いが、「観察」なのだ。顕微鏡でミジンコを見るように、籠の中の鳥の次の動作を期待するように。昔からじっと何かを見ているのが好きな俺にとって、これはいい暇つぶしとなった。
一人の中学生がいた。スクールバッグを背負い、空いている席にも座らず、ただ窓の外を眺めていた。その子は特に何をしようともせず、ただ外を眺めていた。
結局、目的の駅に着くまでその子はまったく動かなかった。
不思議な子だなぁと思いつつ、遅刻しきった学校へと向かう。クラスの奴らも担任もクソ真面目で毎日遅刻する俺は異端者扱いだ。周りの目も冷たい。
こんな高校、入らなきゃよかった。
帰りの電車に、あの子はいた。その隣に人のよさそうな大学生らしき人もいた。大学生はいいにしても、「あの子」は朝とまったく同じ位置にいた。
気味が悪いな、幽霊か?
まさかとは思いつつ、駅に止まったので降りることにする。と、後ろから来た誰かとぶつかった。文句を言おうと振り向くと、さっきまで見ていた二人はいなかった。
家には親はいない。ちょうど旅行中だ。制服をハンガーにかけ、何気なくポケットに手を突っ込むと二枚の紙切れが出てきた。
“何回か遅刻したぐらいで今までの努力を無駄にしちゃうのかい?”
“今を乗り切った先は案外楽なものなんだぞ”
・・・俺は、明日から現状を打破することに決めた。