第27期 #3

道すがらに聞いた話

住宅街を横切る対面道路を車を走らせていると今は潰れた飲食店の隣に大人が屈んで通り抜けれようかぐらいの小さな鳥居がある。奥行き横幅とっても畳3畳分ぐいの敷地に小さな鳥居が4つ並んでいて、住宅街にあって異質な風景。
地の人でもある細君に聞いてみると何でも奥には古い井戸があって、井戸には疣神様が奉られているという。
なんでも、その井戸から汲みあげた水に疣、腫れ物を浸すと、たちどころに消えてしまうのだとか。
そういう迷信だとか言い伝えは一切、信じない僕が、鼻で笑っていたところ細君が、そういえばと話をしてくれました。
細君が未だうら若き乙女であった頃、被れたのか虫に刺されたのか首筋が真赤に腫れ上がったらしいのです。やはり他人の目が気になる年頃だったし、格好良いもんじゃないしと藁にもすがる思いで疣神様のところに行ったのね。水を汲みあげたとこまでは良かったんだけど、結局病院に行くことにしたわ。
だって、あれは水と呼べるものじゃなかったもの。いうならば泥ね。泥よ。もしかしたら、その泥に疣や腫れ物を治す成分があったのかもしれないけれど、逆に雑菌とか入りそうで私には無理だったわね。神様の水だというのに変な話だけど。そう言って細君は短く笑った。
バックミラーに遠く映る小さな鳥居は、時代に置き去りにされてしまったかのようにやがて見えなくなってしまった。


Copyright © 2004 間宮 アキト / 編集: 短編