第27期 #25

モノクロームガーデン

 バラの花束とカーテンを買いに、デパートへ。なかなか思うものが見つからず、ふらふらと歩いているうちに屋上へと出る。色鮮やかなレーザービームが数十本ほど夜空へと放たれていて、他のビルから発射されているものと絡み合い、まるで戦争のよう。
「残念だわ」
 屋上には先客がいた。レーザービームの交差する夜空を背景に、彼女はその長い髪と長いスカートをひらひらとさせて立ち、誰かに向けて電話をしている。
「芸術家っていうのは、あたし芸術のために死んでしまった人のことを言うのだと思っていたけれど、でも芸術家っていうのは、芸術のために死んだ人のことではなく、芸術のおかげでご飯を食べていけた人のことなのよね。さよなら。もう電話はしないわ」
 そう言って彼女は電話を切る。僕は彼女も欲しかったものが思うように見つからずに屋上に辿り着いたのだなと思う。話しかける。
「ねえ、君のそのスカートはずいぶん長いけれど、もしかしてカーテンから作った?」
「そうよ。ねえ、たばこある?」
「無いよ。クレヨンならあるけど。十二色。ドイツ製で、なかなかの品だけど安かった」
「お前達、動くな」
 屋上に大きな声が響き渡る。横尾忠則の絵がプリントされたコートを着た男が、数十人の男達を従えて、こちらに向かって叫んでいる。
「警察だ。お前達を全員レイプする」
 警官達は一斉に走り出す。これは大変、と僕たちは逃げ出す。
 長い間走り続けて、結局僕は横尾忠則のコートを着た男に捕まった。
「観念しな」
 男は僕を引き倒し、ズボンのベルトに手をかける。
「クジラがもうすぐ滅ぶよ」
 耳元で男がささやいた。
「クジラがもうすぐ滅ぶ」
「クジラが? 本当に?」
「ああ本当だよ」
「本当に? いつ?」
「もうすぐさ。今度、お前へを海へ連れて行ってやろう。俺はクルーザーを持っているからな」
 男はそう言って僕を抱き寄せ、首筋にキスをする。女はまだ逃げていて、フェンスによじ登り、下にいる警官達に向かって様々なものを投げつけていた。
「えい。こっちへ来るな、えい」
 彼女はどこから取り出しているのか、色々なもの、様々な多種多様な、例えば服だとか宝石だとか、小さなイスだとか、テレビモニター、アルバム、トランク、ビデオテープ、そのようなものを、実に楽しそうに警官達に向かって投げ捨てている。
「もっと強く踏むわよ? 良いのね?」
 追いすがる警官の顔を、黒いストッキングのその足で踏みつけている。


Copyright © 2004 るるるぶ☆どっぐちゃん / 編集: 短編