第27期 #20

海辺のアルバム

安永幹夫は四十歳にして息子隆志を授かった。妻の幸江は幹夫が通ったスナックのママだった。誕生アルバムに「思った道を歩いてください」と幹夫は記し、ふたりが好きな湘南の海辺で記念写真を撮った。幹夫と幸江は隆志を溺愛。が、親子は溺愛を誤解してしまう。隆志は中学生になると部屋に引きこもり、家庭内暴力を振るう。幸江は仕事場のスナックに避難。近所で起きた少女暴行事件の犯人が隆志であるとの噂。息子を信じたいと思うも幹夫は、部屋に監視カメラを設置。部屋には風車が飾ってあった。ほどなくして犯人が捕まる。安堵する幹夫はカメラを隆志に見つけられてしまう。怒り狂った隆志は幹夫を殴り倒す。死の恐怖を感じた幹夫。その一ヶ月後、近所で少女殺人事件が発生。新聞社に届けられた犯行声明には風車を模したシンボルマークが描いてあった。幹夫は隆志が五歳のとき夏祭りで風車を買ったやったのを思い出した。幹夫は思い切って部屋に飛び込む。部屋をかき回す幹夫。抵抗し掴みかかる隆志。隆志の誕生アルバムがあった。棚からアルバムが落ちる。写真が散らばる。少女の遺体や暴行された少女が写っていた。震えが止まらない。隆志を殴りつけ、ふたりで泣きつづける。泣き疲れて隆志は眠った。幹夫は犯人が息子だと知ってどうすべきか考えた。この世にあってはならないものを作ってしまったと思う。幹夫は警察に連絡をした。すべては自分の責任だ。幸江に宛てて遺書を認める。幹夫は眠っている息子隆志の心臓を包丁で一突きした。あふれる血潮。血の海辺で幹夫は誕生アルバムの扉を開いた。生まれたばかりの隆志の無垢な顔がある。パトカーのサイレンを耳にしたとき幹夫も割腹した。十年後、息子殺しの罪で出所した幹夫を迎え出たのは、細々とスナックを開いて生き延びてきた幸江であった。幹夫の「遺書」は幸江の生きる支えであった。ふたりの贖罪は死ぬまで続く。



Copyright © 2004 江口庸 / 編集: 短編