第261期 #2
怪物は、人間の五倍ぐらいの大きさがある生き物だ。
昔は、農作業や土木工事などでよく使われていたが、今は便利な機械が普及してきたので、怪物の力を使う必要がなくなった。
田舎にある私の実家は昔から農家をやっており、何百年も前から使っている怪物がいた。
「ようケン坊、元気そうだな。東京でイジメられてないか? 土産は買ってきたか?」
私は東京でいつもイジメられているけど、たまに田舎へ帰って怪物と話をしていると少しだけ自分を取り戻せる。
でも土産はいつも忘れてしまう。
怪物は、機械の普及で便利になった今の世の中では不用の存在だ。
飼えなくなった場合は、研究目的の生物サンプルとして研究機関に引取ってもらうか、もしくは自分で殺して処分するしかない。
実家の両親が健在している間は、何とか怪物を飼い続けることができたが、両親が死んでしまった今、私は怪物をどうするか決めないといけない。
「ケン坊、何も悲しむことない。怪物のオイラ、どうなっても気にしなくていい。オイラ人間みたいに、痛み感じることないから、酷いことされたり、殺されたりしても平気さ。でもケン坊、心あるから、いろいろ悩むこと、あるのかな?」
心が何なのかよく分からないが、私には、幼い頃から知っている怪物を研究所へ引き渡したり、自分で殺したりすることは絶対無理だ。
ネットいろいろで調べていると『怪物王国』と呼ばれる施設を見つけた。
『怪物王国』は、怪物を無償で引き受けてくれるが、実際は、怪物を単なる見世物にして商売しているだけの酷い連中らしい。
「オイラべつに、見世物でいいさ。ケン坊みたいに傷付く心、ないからね。怪物王国でオイラ人気者になったら、ケン坊、観に来てくれよな」
いろいろ悩んだ挙句、私は怪物を、その怪物王国に引き渡した。
自分で怪物を飼うことができないんだから、仕方ない。もう怪物のことは忘れて、自分の人生を生きることを一番に考えようと私は思った……。
それから数十年後、街を歩いていると、私はある女性に声を掛けられた。
「○○さんですよね。ずいぶん歳を取ったみたいだけど、あたし……、いやオイラにはあなたのことが分かります」
私は、変な勧誘だと思ってその場を立ち去ろうとした。
「ちょっと待って、ケン坊。あれからあたしいろいろ苦労したけど、今は人間になれて、あなたが怪物のあたしを捨てたときの気持ちがやっと理解できて……」