第26期 #27

最終列車を待ちながら

 駅長が遺失物係りの失踪にこうも関心を示すのには何か訳があるに違いないと彼は思う。あるいは駅長こそあの哀れな遺失物係りの失踪に関わりがあるのではないか。いや、もちろん駅長は駅長たる己の職務に熱心なのであり、自分の部下である遺失物係りの失踪を座視し得ないだけだという可能性も高い。だが、と彼は思う。やはりこのどこか粘着質な駅長には何かあるに違いない。探偵としての彼の確かな経験が駅長を疑えと囁き続けている。ゴウッと列車が構内を通り抜けていく。その列車を見送りながら駅長は口を開く。「やはりね。私も駅員のはしくれだからね。普通列車しか止まらないこんな小さな駅じゃなくてせめて急行が止まる駅に勤めたいとそう思いますよ。あなたにはお解り頂けないでしょうけどね。駅員の階層にもそれなりのものがありましてね」ゴオッ。また列車が通り抜ける。そういえばこの駅に列車が止まっているところを見たことがないことに彼は気付く。この駅に来てもうどのくらい経つのか。構内アナウンスが次の列車の到来を告げる「犬伏岬行き最終列車があと…」その列車がこの駅に到着することは決してないのだと彼は確信する。何故なら遺失物係りがいなくなってしまったからだ。駅長の話はまだ続いていた。「ねぇ、あなた。新しい遺失物係りが必要だとは思いませんか?」

 彼がそれにどのように答えたのか。それは私には解らない。



Copyright © 2004 曠野反次郎 / 編集: 短編