第249期 #4

冗談好きな担当職員

 友達が猫になってしまったので、私が彼女を飼うことになった。
「あなたは、この猫の飼い主登録の第一番に指定されています」
 猫を引取るために人猫変換施設へ行くと、妙に眉毛の太い女性の担当職員が現れて、いろいろ質問をされた。
「引取り主には経済状況を聞いています。失業などで収入は減っていませんか?」
「はい、ずっと同じ仕事を続けていますし、収入の証明書類もあります」
「では、猫になる前の彼女との関係は良好でしたか?」
「はい、概ね良好だったと思います。たまに喧嘩もしましたが、もう二十年も友達付き合いをしています」
「なるほど。では、あなたはこの猫を本当に飼いたいですか?」
「猫になる前の彼女と約束をしていましたので、この猫を飼うのは私しかいないと思っています……。ちなみに、飼い主登録をしている人には他にどんな人が?」
「それは、プライバシーに関わることなのでお答えできません」
 担当職員は、太い眉毛を上下に動かしながらそう答える。
「あ、いえ、後でその、家族などの登録主とトラブルになるのは避けたいと思って、その」
「それは心配ありません。登録主はあなただけです」
「え、だったら、最初にそう……」
「プライバシーに関わることなのでお答えできません、というセリフを一度言ってみたかったもので、すみません」
 担当職員はまた眉を上下に動かしたが、そういえば猫になった友達にも、無意味に眉を動かす癖があったなと私は思い出した。

 私は手続きを無事に終えて、猫になった彼女を引取ることができた。
 本当は人間のままの友達同士でいたかったし、彼女が猫になりたい、猫になった自分を飼って欲しいと相談してきたときは、いろいろ悩んで一カ月ぐらいはよく眠れなかった。
 でも、何もすることのない昼下がり、猫になった彼女と一緒にソファでくつろいでいると、彼女は自分の幸せを見つけたのかもしれないなと思えた。

 しかし五年後、猫になった彼女は寿命がきて死んでしまい、私の心に、ぽっかりと穴が開いた。
 人猫変換施設へ行って、猫の死亡手続きの申請をすると、五年前の手続きで会った眉毛の太い女性職員が現れた。
「あなたのご心痛をお察しいたします。もし、あなたが猫になるなら、わたしがあなたを飼います」
「え?」
「わたし、猫喰い、という妖怪なのです……。というのは嘘ですが、実は、彼女はわたしの妹だったのです。猫になった妹の世話を最後までしてくれてありがとう」



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