第247期 #5

 俺は早朝の仕込みを終えて、窓から家の外の道を眺めながら、一息ついていた。
 この時間、学生やサラリーマンが多い。その中の極大リーゼントを撫でつけた学ランの男に目を止めた。上背は180センチはあり、学ランはコートのように長い。
「化石みたいに気合の入った兄ちゃんだな」
 学ランの男は鋭く周囲を威圧している。
「不良にしちゃ早起きだが、堅気の皆さんを朝から怖がらせるんじゃねぇよ。野暮だねぇ」
 学ランの男の前に人だかりがあった。学ランの男は気にせずズンズンと進み、人は彼に弾かれて道を開けた。
「やれやれ、回り道はできねえかい。野暮だね」
 人だかりの中心には、品のいい服を着た婆さんが頭から血を流して倒れていた。
「おっと、こりゃあ事だね」
 その婆さんに中学生くらいの女の子が縋りついていた。
 学ランは女の子を怒鳴りつけた。
「こんな子を脅すなんて野暮だよ……と言いたいが、これは粋だね」
 女の子は目を覚まさせようと婆さんを揺さぶっていた。しかし、頭を打っている場合、決して動かさないのがセオリー。学ランはしゃがみ込み婆さんの意識を、次いで呼吸を確認していた。
 やるじゃねぇか。
 と思った瞬間、学ランは近くにいた男をぶん殴った。
「何だい藪から棒に、野暮天が」
 しかし、ふと気になって映像を巻き戻してズームすると、どうやら殴られた男のスマホが録画状態になっていた。
「ははん、野暮天は動画投稿者ってかい。俺でなきゃ見逃しちまうね……粋だよ」
 俺はドローンを飛ばして、窓を増やし、多角的に学ランを監視する。案の定、そこから学ランは髪のセットを始めたり、服を脱いだり着たり、靴を頭に乗せて口をとんがらせたあげく……などなど無茶苦茶やり始めたが、そのたびに俺は、
「野暮だよ!」「粋だね」「いや、そりゃ野暮……粋だ」「野暮!……か〜ら〜の〜」
 と目まぐるしく入れ替わる野暮と粋の判定に躍起になっていた。これまでにない野暮と粋のせめぎ合いに、俺は夢中になりすぎて、
「盗撮、盗聴の軽犯罪法違反容疑により逮捕する」
 肩に手を置かれるまで、部屋に人が入り込んでいたのに気付かなかった。
 見張られていた? ドローンで場所がばれた?
 刑事がどこかに電話をかけた。するとモニタの中で学ランの男が立ち上がり、こちらを見て手をふった。
 思わず笑みがこぼれた。
「なんと、いやはや、まいったね」
 こいつは粋なオチだよ。
 なあ、あんたもそう思うだろ。



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