第243期 #3
五人の飲み仲間がいる。スマホを割ったペニー、美人局に集られたインゲン、免許取消のアクマ、保釈中のブタ、そして末期癌のオタケ。知り合った経緯は酒に潰れて誰も覚えていない。
車は郊外を行く。BGMはandymori。いつものように、知性の低い雑談に花を咲かせながら。
トンネルを抜けると紅葉の最盛期。車内を移ろうステンドグラスのような光が、インゲンには走馬灯にも見えて、
「おいペニー、写メ撮ってくれよ」
「だからぁ携帯ねえっての」
ペニーに背もたれを蹴られてやっと景色を嚥下し、インゲンはエンジンの回転数を上げた。
「写メって死語?」
「死語だろ」
運転を免れたブタとアクマは呑気なことを言う。
「ブタはこんなことしてる場合か?」
ペニーは心配している。
「なぁに、弁護士がついてる」
痴漢冤罪のブタは胸を張る。「人生は待ってくれないんだ」
「そうだよ、そうだ」
誰もが同意した。
(これからやってくる冬のことを口にする者はいない。しかしそれは恐れているのではない。)
無人温泉があるらしく林道に立ち寄る。道の先には掘り込みの湯船に溢れるぬるま湯。外気温と相まって、勇み入った彼らは猿みたいな格好で冗談みたいにぶるぶる震える。戻れば落ち葉が車を彩っていた。車内は暖房をつけても全然温まらない。
「このポンコツ名前負けなんだよ」
「俺たちが勝手に呼んだだけだろ」
ペニーのぼやきに突っ込むアクマ。名付け親はオタケだった。
「オタケのやつ、言い出したことは絶対曲げないから」
車は目的地に近づく。造形の良い山だった。山岳会に入っていたオタケが、お気に入りだといつも話していた山。
「あいつ、山では絶対に死なないって豪語してたもんな」
何気ないようにブタが言う。急に現実が襲ってきて、アクマは人知れず胃を痛めた。呆れるほど速度超過して警察に捕まり、「その時」に間に合わなかったことを今も後悔している。
それでも、もう嘆いてはいられない。俺たちは精一杯生きているのだから。
車内灯の隙間に引っ掛けられた写真の中でオタケが大笑いしている。
一緒に誓ったのだ。死ぬまで今を生きよう。それが俺たちの栄光だ。
着いたのは昼下がりだった。
「登山口までなのはしょっぱいな」とペニー。
「お前らは登るなって散々言われたろ」とブタ。
「オタケなら、死んでも俺たちを止める」とアクマ。
「さぁ行こうか」
ドアを開けてインゲンが言う。「オタケを忘れるなよ」