第243期 #2
仕事からの帰宅途中、道路に穴を掘っている人と遭遇した。道路工事士のようだが、暗闇のなかでヘッドライトを灯し、重機も使わずにたったひとりで深く穴を掘っては塞ぎ、さらに深く掘っては塞ぎしている姿がなんとも奇妙に思え、声をかけた。
道路工事はいつまでかと問うと、わからないと返答される。水道工事か、それとも電気工事かと問うと、わからないと返答される。
では、あなたは何をしているのかと問うと、驚くべきことに。
「道路に穴を掘っています」
という返事がかえってきた。
「穴を」
「はい」
「なぜ」
「わかりません」
工事士はそう答えると、訝しげに私を見た。
「あなたは市の監督の方ですか」
「いいえ、違います」
「ではなぜ私に声をかけたのですか」
言葉のとおり、何をしているか聞きたかっただけだと返答すると、工事士は少し息を緩める様子を見せた。
「市から発注された仕事は、道路に穴を掘ることです。充分に掘ったらその穴を塞ぎ、さらに深い穴を新たに掘るようにと指示されています」
「何のために」
「わかりません」
「わからないのに掘るのですか」
「それが私の仕事なので。市からの依頼をそのとおりに行うこと。私が請け負っている仕事はそれだけです」
工事士はそう回答すると、手のなかの道具を持ち直し、新たに穴を掘り始めた。
すでに質問できる時間は過ぎてしまったように思えた。私は帽子をかぶり直し、工事士に背を向け、帰路を急いだ。
少し歩いたが、やはり気になり振り返った。暗闇のなか、工事士がヘルメットにつけているライトが明るく照り映え、かれの姿が浮かび上がり、まるで人智を超えた神聖な仕事を行っているように見えた。そして確かに、かれがいま行っている仕事は、人智を超える何ものかであった。かれは何をも生み出すことなく、けれども、かれにとって何よりも重要な仕事をただひたすらに続けているのだ。
夜が明け、翌朝、仕事に向かう途中、かれの工事していた道を通った。かれの姿はもう見えず、工事の看板もなく、道路はいつにもましてでこぼこしていた。
かれのするべき仕事はもう終わったのだろうか。
私はかれが掘り固めた道を歩き、職場へと向かった。職場では私に任された仕事が待っている。ファイリングされた莫大な古い書類を新しいノートにひたすら書き写すだけのその仕事は、市から依頼された最優先の、大きなお金が動く非常に重大な仕事である。