第236期 #8
「私猫が好きで」
「そうなんですね、猫……かわいいですよね」
「うちで二匹飼ってて」
「何歳くらいなんですか?」
「1歳と2歳、まだ小さくて、部屋の中二匹で走り回ったり、でも餌箱を振るとすぐこっちに走ってきたり、寝てるといつの間にかお腹の上で丸くなってたり、二匹ともですよ」
「ああ、目に浮かびますね」
「△〇さんも猫お好きなんですか?」
「僕は猫は正直苦手で、かわいいとは思うんですけど、積極的にこちらから近づいてどうこうっていうのはないですね。幸いアレルギーはないんで、友達の家に行ってそこで猫を飼ってたりしても全然大丈夫です。でも猫に興味のない人あるあるなんですけど、そういう人に限って猫が近づいてくるという」
「ありますよねー! 猫好きとしてはうらやましいです」
「猫以外には何かご趣味は? 休みの日はどこか出かけられたりとか」
「ずっと猫と一緒にいちゃう日も多くて、あんまり積極的に外に出かけたりはないですね。でも連休が取れたりすると友達と旅行に行ったりしますよ」
「僕は結構旅行が好きで。これ、この前秋田に旅行いったときの写真なんですけど、比内地鶏ってあるじゃないですか、あれの肝焼き、全然苦くなくてすごいおいしかったんですよ」
「えー! 焼き鳥すごい好きです! でも秋田って遠いですね、飛行機ですか?」
「新幹線です。旅行は過程を楽しむタイプで、移動時間も車窓見ながらぼーっと考えごとしてたりしちゃいますね。友達に話すとナルシストっぽいって不評ですけど」
「ふふ、でも△〇さんって、初対面でこんなこと言っちゃ失礼かもですけど、すごく深いこと考えてそうですよね。私なんかもうほんと考えるの苦手で、すぐもういいやーってなっちゃう」
「そんなことないですよ。9割がた食べ物のこと考えてますよ、着いたら何食べようって」
彼はカップを持ち上げ唇を潤すと、秋田新幹線内で考えていた残り1割のことを思い出していた。それは田沢湖から角館までの区間で、車窓に迫る緑の量に圧倒されながら、彼はもしこれが夜中で、自分が独りぼっちで新幹線から置いてかれたらと考えていた。もしかしたらこんな気持ちを誰もが、ひょっとしたら目の前の彼女も抱えているのかもしれない。ならばその孤独が共鳴すればどんな音が。
「どうしました?」
彼女が彼の前でおどけて手を振る。「いや」と笑いながら彼は孤独の部分は端折って秋田の森の深さを少し大げさに話しはじめる。