第236期 #9

続きゆく

 それは細くて長い生物である。その紐状の胴体は、小さなパーツが鎖状につながったものであり、それは一個の生物であり、また、一体の生物ではなかった。そのうねうねと動く生物の進行方向を定めているのは、比較的大きな形を持った頭部のように見えるものであり、それはその生物の先導者であり、また、その身体を形成する個々のパーツの親であった。親はそのつながった胴体をリードするべく、尻を振る動きで、つながりに意思を発信するが、個々の身体はほんの少しの衝撃で容易に外れてしまうので、気づけば親はひとり旅となっている。けれども、いかにもその後ろに連綿と子たちがついてきているかのように、尻を振りながら進んでいるのが、健気にも見える。
 親の先導から逃れた子たちは、すでに一個の生物としての動きができず、あの長かった胴体はあっという間にばらけてしまい、あるいは空気中を、あるいは水中を、あるいは土のなかを、小さな粒として流れながら、いとも簡単に捕食されてしまう。儚い命の生き物だが、かれらはほんの少しも脅えや焦りのようなものを見せない。そもそも、複雑な感情を見せることができるほどの複雑な形態でもない。かれらは弾け飛び、そこらじゅうにいる生き物たちの口中に吸い込まれ絶命した。それだけである。
 そのなかでも生き延びることのできる子たちがいる。別段、かれらに知恵があったわけでも、能力が秀でていたわけでもない。たまたま何かにひっついたおかげで捕食されることなく生き延びた。それだけである。かれらはそこで栄養を入れ、ほんの少し大きくなる。かれらの親だったもののように。かれらは自身のコピーを生み出す。そして、かれらはつながる。ほんの少し形の大きい親を頭部として、生み出された数多の子らがつながり、また紐状の生物になる。親は子たちを先導し、尻をふりふりその安住の地から旅立つ。そして、また次の楽園を求めて流れていくのだ。
 では、ひとり旅を続けている親はどうなったのか。尻を振りつつ進みゆくという、目に留まりやすい動きをし続ける親は、無意識のうちに多数の生物の口中に消えていった子らとは異なり、わかりやすく餌である。かれらは狙われ、捕食され、他の生物の栄養分となる。その生物の羽根なり鱗なりにその子らがひっついて延命し、次世代を生み出してつながり始めていることなど、親には知る由もなく、ただ消えゆくのである。



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