第236期 #6

魔女の血筋

 私の家系で実際に魔女をやっていたのは、私の祖母の、祖母の、そのまた祖母までらしい。
「だからあたしも、魔法なんて使えないの」
 そう、祖母は笑顔で言った。
「でも子どもの頃は、その気になれば魔法を使えるかもしれないって思っていたのよね」
 学校が夏休みになるたび、私は、祖母の家に行っては魔女の話を聞いた。
「そういえば、あたしのお婆ちゃんのお婆ちゃんが使ってた魔法のステッキとホウキが、まだ蔵の中にあるわよ」
 小学五年生だった私は、祖母の話を聞いたあと、蔵の中で埃にまみれながら、古い魔法の道具を見つけたことがある。
 そこにはメモ帳が添えられていて、こう書いてあった。

「だんだん世の中が科学の時代になってきて、魔女の居場所もなくなってしまいました。でもこの道具は、魔女が確かに存在していた証として残します。あなたにはもう魔法は必要ないかもしれないけれど、もしかしたら、また必要になる時代がくるかもしれません。そんなとき、この魔法のステッキとホウキが役に立つことがあったら嬉しいです」

 私は早速、ステッキを持って庭の小石に動けと念じたり、魔法のホウキにまたがって飛べと命令してみたりしたけど、何も起きなかったので縁側にゴロンと寝そべった。
「魔法には修行が必要だから、いきなりやっても無理だし、メモ帳にもそのことは書いてあったでしょ?」
 祖母にそう言われ、古びた魔法のメモ帳のページをめくってみると、先輩の魔女から指導を受けることが必要だと書いてあった。
「でも、あたしが子どもの頃だって、もう魔女なんて一人もいなかったしねえ」
 私は祖母が持ってきたカルピスを飲んで、もう一度ゴロンと縁側に寝そべった。
「でも、メモには修行のやり方が書いてあって、それをやってみたら一回だけ魔法を使えたの。あたしもあなたと同じぐらいの頃、魔女の血筋のある自分も魔法を使えるんじゃないかと思って、そりゃあもう夏休み中、魔法のことばかり考えていたわ」
 祖母の言葉が子守歌のように聞こえて、私は半分眠ってしまった。
「三日間何も食べない、誰とも喋らないって修行が一番つらくて、両親にも変に思われたけど、あるとき何となく魔法の力を体中に感じてね。ステッキを持って世界よ変れって命じたら、曇っていた空が一気に青空に変ったの……。そのとき世界の何が変ったのか分からないけれど、あなたと今こうして居られるのは、そのときのおかげかもしれないってね」



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