第236期 #4

#アイスなう

#食べ放題なう

 写真アップしてタグ付けて。#スタバなうにしとくべきだったかも。様式美的に。なんて思う。
 レトロなアイスクリームパーラー。レトロって言っていいと思う。それともカントリー調? 壁も木のカウンターも白く塗ってあって、引き出しや戸棚の扉は淡いモーヴパープルとミントグリーン。レジの上にはでっかい風船が飾ってあって、リボンもついてて。アメリカのガーリーなバースデーパーティみたいな雰囲気? 知らないけど。
 こんなお店が近くにあったなんて知らなかった。もっと早くに知ってたら通ったな。学校帰りとか。写真撮りまくったわ。
 ちょっと考えてタグを足す。

「ゆーあ」
 呼ばれて振り向いたら怜くんがネコミミつけてた。あんなにいやだって言ってたのに。あたしのシッポに合わせたやつ。ペアルック? でいいのかな?
 それがなんだか妙にハマってて、笑いそうになったけど笑ったら拗ねるかなと思ってやめといた。なあにって答えるより早く、アイス持ってるあたしの手をつかんで、がぶって。ストロベリーとミルキーバニラのダブルの、バニラの方の三分の一くらい行かれた。
「なにすんの」
 あたしがぷんと膨れても、怜くんはにやにや笑うだけ。
「怜くんも自分の分ダブルでもトリプルでもやればいいのに」
「人の食べるから美味いんだよ、こういうのは」
 もうちょっとなにか言ってやろうかって思ったけど、ネコミミに免じて許したげた。あんなにいやがってたのに、写真もいやがらないでくれたし?

 きっとこれが、あたしたちが最後に上げる写真。こんなことになるって分かってたらカップル垢つくって写真あげまくっとけばよかった。怜くんは死ぬほどいやがっただろうけど。死ぬほど。
 きっとこれが最後のアイスクリーム。床はネズミとゴキブリだらけで、入るのも実は勇気がいった。歩いて行ける距離のスーパーやコンビニの食べ物は食べつくして、ファミレスとか回転寿司やさんとかにも行きつくして、たぶんここが最後。窓の外はマンガみたいな、「荒廃した風景」、っていうの? 半分崩れたビルとか、ごしゃごしゃに潰れた街並みとか。ぜーんぶ灰色。あたしたちの家族も灰色のなかのどこかで潰れてる。たぶん。

 電気はまだ使えるけど、笑えることにネットにもまだ繋がるけど、アイスだけでどのくらい生きてられるのかなんて知らない。

 最後に足した、ハッシュタグ。あたしたちの。

#LastOneStanding



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