第230期 #3
澤が笑うので加瀬は黙り、足を踏まれて声も出なかった。靴下に血が滲み、心臓のように鼓動を打った。文句があるか、と澤が尋ねた。加瀬は黙った。
アーケードで飲み物と食べ物を買わされた。澤が平らげる音を耳でだけ聞きながら足湯に入れた爪先から煙のように血液が鼓動の合図で噴き出すのを見て待っていると、人形が集まってきた。あっち行けよ。澤が加瀬の鞄にゴミを詰め終わる前に傷は処置され、加瀬は去っていく人形に目もくれずに胸に手を当てた。ごちそうさん。澤が見えなくなるまで待って、再び湯に浸けた。
輪郭が揺らぐ。腹が減った。見つけた食べ残しをよく噛みながら音楽をかけ、咀嚼と渚がまぐわう音に集中した。この辺りは海だったと知っても見えてるものは変わらない、と声に出してもよく聞こえなかった。本当に言ったのか? 私の声はどんな音色だったろう。
脚が増えて、遅れて澤の腕が伸びた。飲めよ。ここって海だったんだって、と澤の声がよく聞こえた。