第220期 #9

抗えない魅力をもってそれは

それは突然現れる。

見渡す限りの空間に、眩いほどの光のドミノ。
ぶわんぶわんと点滅しながら遙か向こうまで広がって、やがて遠くに尖塔がぼんやりと浮かび上がった。

あそこがゴールか。

足下にある最初の積み木。それはぴかぴかと点滅し、私に早くと訴えかける。
早く早く、私を押して。ゴールへ向かって始めよう。

そうは言っても。
私は顔を上げ、光る道を見渡した。それは所々でささやくように光っていて、それでも全部は見えなかった。まばらに途切れているようにさえ見える。

大丈夫、その近くまで倒れれば、なんだかんだでうまく行くから。
見たいでしょう? あの尖塔まで行って、てっぺんまで駆け上がって、最後に誇らしく光り輝く様が。

見たい。けれど。
私は目をこらした。
あ、あそこ、絶対に途切れてる。先にあそこに合う積み木を探して並べておかなくちゃ。あそこ、どうやってもよく見えない。

本当にちゃんと倒れていくの?
うまくいくのかな?本当に大丈夫?
ええい、ままよ!

私は最初の一つを押した。ドミノはゆっくり倒れ始め、次第に速度を上げていく。
よしよし、うまくいってる。と思った時、突然思ってもみない方へ曲がった。
え、そっち?あれ、こっちは?え、待って!

そうやって必死で追いかけて、雲の中に入る。一つ先の積み木しか見えない。
どうかどうか、次の積み木がありますように。どうかどうか、止まらないで。もうどんなに不細工でも良いから、最後まで駆け抜けて。
そうして雲を抜けて、またぐるりと一巡り。ああやっと、あの尖塔が見えてきた。あそこがきっと入り口だ。
それは美しく音を立て、激しく一気に駆け上がった。てっぺんの積み木が倒れ、ぱん!とクラッカーが鳴る。

やった!ゴールだ!

上に立ち、来た道を見下ろした。
走っているときは無我夢中だったけど、なんて美しく、愛おしいのだろう。

やり遂げた。

そう思った時、ぽろりとゴールの積み木が落ちた。
それは尖塔の裏側へ、吸い込まれるように消えていき、こつん、と暗闇に音が響いて、次の瞬間。
眩しい光が目を覆った。光の道が現れる。私は呆然と見下ろした。

遠くに霞がかった虹が見えた。その更に遠く、あれは山だろうか。
見下ろすとさっき落ちた積み木があった。
そいつはちゃっかりとこの道の、一番最初の積み木になってぴかぴかと光っていた。

もう脚が痛い、肩も痛い。腰も痛いし目も痛い。
でもそれはとても魅力的で、私はごくりと唾を飲む。
そっと指を押し当てた。



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