第220期 #8

悪魔と友達になるということ

 悪魔に、友達になって欲しいと言われた。
 その悪魔は、頭に角の生えたあどけない子どもの姿をしており、悪魔っぽい黒マントを風になびかせている。
「角やマントは、ただの飾りだから」と悪魔は言って、角を手で引っ込めてみせた。「一緒に歩いてても普通の子どもと変わらないし、あなたに迷惑をかけることはないと思うの」
 私は胸に手を当てて言葉を探した。
「悪魔に魂を売るっていう言葉があるのだけど、君と友達になってしまったら、私は人間として堕落してしまうのではないか?」
「あなたが堕落するのは、あなたのせいで、あたしが原因じゃないでしょ?」と悪魔は、笑いながら私に言葉を返した。「友達っていうのは、ただあなたのことを日に何度か思い出して、どうしてるかなと考えるだけ。そしてあなたと会ったときに、他愛のない会話をしながら、あなたの笑顔を見て安心したいだけ。ただそれだけの関係なのに、魂を売るとか、そんな話になるわけないじゃない」
 悪魔の話はもっともだが、本当にそんな純粋な友情なんて存在するのだろうか。

 とりあえず、私は騙されたと思って悪魔と友達になってみた。
 詐欺で騙されるのは悔しいが、悪魔に騙されても、相手は悪魔だから仕方ないと思えるはずだから。

「こんにちは!」と悪魔は言って、待ち合わせの時間ぴったりに現れた。「あたしデートは初めてだから、とても楽しみにしてたの」
「いや、友達同士の場合は、デートとは言わないよ」
「でもあたしは今日、デートがしたいの」
 一緒に街を歩いていると、たぶん親子にしか見えないから、見た目には友達同士でも、デートでもないなと私は思った。
 私たちは、回転寿司のお店で食事をしたり、雑貨屋で奇妙な置物を買ったりしながら時間を過ごした。
「これがデートなのね」と悪魔は、海に沈んでいく夕日を見ながら言った。「あなたと一緒に色んなことができて、あたし楽しかったな」
「これがデートかどうかはよく分からないけど、君が楽しかったのなら」
 悪魔は、頭の左右に手をあてて角を出し、右側の角を折って私に差し出した。
「今日あたしに付き合ってくれたお礼よ」
 私は、角を手に取って眺めてみたが、何の役に立つのか分からなかったので返した。
「自分も楽しかったから、お礼なんていらないよ」
 悪魔は、返された角をぎゅっと握りながら笑った。
「この角であなたを悪魔にするつもりだったけど、やっぱり、友達でいるのが一番いいかもね」



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