第22期 #15

吾郎のふるまいを見るにつけ、父芳保は誠実に生きろと説教をした。反発し、口も聞かないでいるとあっと言う間に脳溢血で死んでしまった。芳保が会社を倒産させてから極貧の生活に吾郎が小学校四年生のころから陥った。吾郎が中学二年のとき、不良がバイクで校庭に侵入。爆音で生徒が窓から顔を出す。ブスでデブの美子先生が果敢に飛び出して行った。吾郎は「よっトンカツや」と声をかける。まわりは爆笑。不良たちは逃亡。帰りの会で、鬼教師の河嶌が美子先生を豚と呼んだのは誰だと聞いた。無言の視線が痛い。吾郎は名乗れない。やりすごすことだけを考えた。そのとき河嶌は、級友弘志を疑った。犯人扱いの弘志。謝れない吾郎は、毎日、弘志の鞄にエロ本を入れてやった。喜んでいる弘志を見て吾郎は帳消しだと思った。それから吾郎は進学校から一流大学を卒業し、今では地元で建設会社を興し盛んにやっている。ある日、無職の弘志がやって来た。吾郎は秘書兼運転手として雇うことにした。しばらくして、週刊誌の記者が市長と国会議員の癒着に絡んで吾郎が取材対象として浮かび上がって来たと弘志が耳打ちした。取材には知らぬ存ぜぬを押し通す。事件が発展すると、吾郎は弘志のしたことと白を切る。大物政治家が絡んでいたことから事件は弘志の逮捕で尻すぼみに終結。金を積んで弘志を保釈し、一生面倒見てやると言って肩を抱くと、弘志は泣きながら抱きついた。吾郎は最善の策だと思った。しばらくして吾郎は国会議員となる。選挙戦で打倒自民党を叫んで当選した後、自民党入りした。政治的信念などない。人間は自分の利益のために動く。地元に帰って、陳情を聞いてやればみんな大喜びだ。ひさしぶりに墓参りをした。芳保の説教が頭によみがえる。俺は生き方を変えない。ふと地面に目をやると墓から落ちたあめ玉に大量の蟻が群がっていた。吾郎はかかとで思いきりあめ玉を踏み潰した。



Copyright © 2004 江口庸 / 編集: 短編