第218期 #11
クラスの三分の一の生徒が猫になってしまった。
しかし、二週間もすれば元の人間に戻るという話だったので、学校側もそこまで深刻な事態とは受け止めていなかった。
「猫の姿をしていても彼らは人間です」と担任は、朝のホームルームで言った。「なので、いきなり頭を撫でたり、抱きしめたりしてはいけません」
すると、窓際の席に座っている女生徒が手を挙げた。
「じゃあ、猫のほうから近寄ってきても触っちゃだめですか?」
「いえ、彼らは猫じゃなくて人間だと考えて下さい」
「でも、どう見ても猫だし……」
結局、猫になった生徒のほうから近寄ってきた場合に限り、軽く触れてもよい、と職員会議で決定したのだが、中には思わず抱きしめてしまう生徒もいた。
「だって、コミュニケーションのやり方は人それぞれでしょ?」
窓際の女生徒は、男子生徒がサッカーで遊んでいるグラウンドを眺めながら言った。
「彼らは元人間だけど、今は猫。少なくとも、喉をぐるぐる鳴らしているときは、誰かに甘えたいサインなんじゃないの?」
教室が一瞬静かになったところで、別の女生徒が手を挙げた。
「それは、単なる猫好きの人の意見です。最も尊重すべきなのは、彼らが人間だということであり、彼らが人間に戻ったときに、元通りの関係で居られるようにすることではないでしょうか?」
窓際の女生徒は、視線を外から教室の中に戻し、腕を組みながら言葉を考えた。
「二週間だけと言っても、その人は一度猫になってしまったのだから、そこから新しい関係を始めるしかないし、完全に元通りというわけにはいかないでしょ?」
二週間後、猫になった生徒たちは、不意に人間に戻ったり、戻らなかったりした。
人間に戻った生徒の中には、何事もなかったように振舞う人もいれば、猫の時に関係を深めた相手と、友人や恋人同士になる人もいた。
一方で、人間に戻らなかった生徒は、薬物や血清による治療のために専用の施設へ送られてしまったが、半年もすれば元の人間に戻るという。
ただし猫になった人間のうち、一万人に一人は人間に戻れないというデータもある。
「もしずっと猫のままでも、私たちは友達だからね」とある女生徒は、施設送りになる猫の生徒に言った。
猫の生徒は、ぐるぐると喉を鳴らして、女生徒の足に何度も体を擦りつける。
窓際の女生徒は、三日前に頭に生えてきた猫耳を無意識に動かしながら、手の肉球をぺろぺろと舐めて顔を拭いた。