第210期 #5
「つまんねぇ」
ぽつりと呟いてしまう。
昼過ぎにやっているテレビは、大して面白くもない話題ばかりのワイドショーばかり。録りためていたアニメはすべて消化してしまったし、かといって以前にハマっていたゲームももう飽きてしまった。昼寝をするような眠気もない。外は暖かい日差しが草木を照らしている。その風景は平和すぎてつまらない。
もっと、刺激的な何かが欲しい。心の中でそう、渇望の声が聞こえた。
大学生になって、最初のほうは刺激的だった。
憧れの一人暮らし、初めて行く飲み会、サークルなんてものに入って、新しい人達と出会って。何をしても楽しい。そんな生活を、ずっと望んでた生活を手に入れることが出来たと思っていた。でも、慣れるとそれは『当たり前』のものでしかなくなって。結局つまらない日常に舞い戻ってしまった。
おかしいなぁ。小学生の頃は何でもなくたって毎日に希望を抱いていたのに、今ではこれから就職活動が始まり、大学を卒業すれば毎日通勤ラッシュにもまれながら働きに行って、疲れて帰って、寝て起きて、それでまた働きに行く、そんなつまらない灰色の毎日に向かって希望も何もなく流れ作業のようにそれを受け入れていくのだ。
自分は何者かになれる、そう思ってた。
小さい頃からアニメが大好きで、まだ現実と非現実の区別がつかない小さい子供の頃なんかは本気で戦隊モノの主人公に憧れたし、いつかは自分にもなれる日が来ると信じていた。中学生に上がっても、無意識にそうどこかで思っていたのかもしれない。いつも『なれるかもしれない何か』に向かって走っていた気がする。いつの間にか、その目標が、『なれないもの』だと理解出来たのか、自分は歩むのを止めていたのだ。
つまらない毎日、自分が何者でもないという変わらない現実、どこに行ったらあるのかわからない自分の探す目的地。
時々、自分の夢を叶えて立っているバンドマンたちが、テレビに映る芸能人たちが、定まった目標に向かって進んで行く友人たちが眩しくなる。
「俺は……?」
目を細めているだけじゃ何も生まれないし定まらない。テレビだってゲームだって、今の自分に何も答えてくれないし、与えてくれない。自分がしたいことなんて、なりたいものなんて自分で見つけなくちゃいけない。彼らだってそうやって今の彼らを見つけ出したんだから。
『つまんねぇ』のは自分じゃないか。刺激的なのなんか求めなくてもいい。
とりあえず、歩くんだ。