第210期 #4

私は詩が嫌いになった

私にとって詩を書くのは、きれいな例えじゃないけど、トイレに行くようなもの。日常の色んなことを私のフィルターで消化すると、詩が自然と生まれる。だから外に出さないと体が変になる。
別に誰かに見てほしいと思っていた訳じゃないけど、紙に書くのより管理しやすいから、投稿サイトで投稿しつつ、Twitterでつぶやくことにした。
私みたいにぽつぽつ詩をつぶやく人とか有名人をフォローして、私のフォロワーは20人ほどで、詩をつぶやいても何の反応もなし。時々、「闇を感じる」とか言われたけど、別にいい。たくさんフォローされて、(いいね)って言われている人が少しうらやましいけれど、私の詩はそういうものじゃないから、別にいい。

スマホの通知が突然鳴り続けて焦った。何が起きたかわからない。
Twitterの通知が大量に来ていた。通知の嵐の中、よく確認したら、私のお気に入りの現代詩人の一人、ぷらぷらさんに私の詩がリツイートされた、お褒めの言葉と一緒に。「幻想的。世界の切取り方が美しい。この詩はもっと読まれるべき」
投稿サイトでもTwitterでも、誰にも反応がないのが普通。学校で詩を書く機会もあったけれど、これまで正直誰からも詩を誉められたことはなかった。あ、小学校の先生に、あなたの詩は不幸な感じがする、とか言われたことはあったかな。
詩を褒められたらこんなに嬉しいのか。私の詩はもっと読まれるべき。
その日以降、私の詩はコメントが一気に増え、フォロワーも増えた。コメントが難しい書き方でよくわからないことも多かったし、そんなこと思って書いた訳じゃないよ、というものもあった。ただ、評価は嬉しいし、私の発する短い言葉の意味がどんどん広がるのがドキドキする。ファンみたいな人も出てきて、恥ずかしいけれど、届けたい、とも思った。

ぽつぽつさんは私を発掘したという気持ちがあったようで、色々助けてくれた。出版社などにもコネがあり、詩や短編小説を公表する機会をもらえた。
公表機会が増え、評価の声も幅広くなったが、私が良いと思うものと、良い評価がもらえるものがズレる。

詩を書くことにはじめて悩んだ。ぽつぽつさんは言った。「詩に絶対はない、『意味』だから。自分が良いと思うものを作るか、他人に良いと思われるものを作るか、自分で決めないとね」
ぽつぽつさんは自分が良いと思っているものを作っているのだろうか。寂しそうな顔の意味を私は考えていた。



Copyright © 2020 糸井翼 / 編集: 短編