第21期 #6

春の馬鹿やろう。

毎年毎年あいつは私の元にやってくる。季節は春に限定される。あいつのせいで何度泣いたのか、鼻水を出したのか、目を掻いたのか覚えていない。あいつはいつも悠然と私の所で寛いでゆく。あっちへ行け。と怒ったって効果なし。鼻水を流しながら応戦するけど勝てた試しなんて一度もない。
もうそろそろあいつとも決別したい。かれこれ10年の付き合いになる。毎年煩わされるこっちの身にもなって欲しい。あいつのせいで毎年苦しんでいる人はこの世の中にたくさんいるだろう。あいつに悪気はないのは分かる。この体質がいけないのかもしれないとも思う。
でも、憎くて堪らないのだ。マスクだって目薬だってお目目パチパチするやつだってもうウンザリ。鼻をかみすぎて鼻の皮がめくれるのだって嫌。たまに朝、目が開かないなんてのも慣れたけど…悔しい。
だから、お願い。
もう、来ないでね。
でも、いつも願いはあいつには届かず。
「今年も世話になったな」
と、意地悪く言って春の終わりに去ってしまう。




何て憎らしい杉花粉。


Copyright © 2004 萌木千翔 / 編集: 短編