第21期 #3

タイミング

「ねぇ、どうかしたの?」
秋羅の声もろくに耳に入らない。
せっかくの久しぶりのデートで行きつけのカフェに連れてきてもらったのはいいけど、昨日職場であった出来事のせいで私は少しイライラしていた。
「愛…」
秋羅が淋しそうな声で私の名を呼んだ。
「あ、ゴメン…。何だっけ?話」
彼の話も上の空だった。悪いことをしてるのは、分かってるんだ…。


「何で君はこうもできないんだ?」
上司の言葉。
―分かってたら苦労しない。

「コーヒーはもっと濃くしてくれないか?」
ちょっとしたことでもイライラが積もっていく。
―文句があるなら自分で入れたらどう?


「ハァ…」
無意識に溜息が零れてしまう。
楽しいはずのデートなのに、今日はそれ所ではない、そんな感じだった。
「愛、会社で何かあったの?」
心配そうに問い掛けてくれる秋羅の幼げな表情に、私は少し顔がほころんだ。
「ゴメンネ、せっかくのデートなのに」
彼に申し訳ないと思い、私は秋羅に頭を下げた。
「いいよ、そんな日もある。話だっていつでもできるしさ」
彼は私の笑顔を見てほっとしたのか、そう言い終わるとニコッとほほえんだ。
秋羅の笑顔が大好きな私は、その表情を見て、少し気が和んだ。
さっきまでのイライラが嘘みたいに薄れていく。

「アリガト」
私が素直にそう言うと、秋羅は私の顔色を伺いながら目の前のオレンジジュースを飲み干した。
そして、目が合った瞬間、お互いに笑いあった。


Copyright © 2004 メグ / 編集: 短編