第21期 #20

君と、あなたと

 「君と恋がしたいな」
 そういって男は微笑んだ。全然カッコ良くない。なんなんだ。私の何が彼にそうさせるのだろう。
 「僕と君なら、絶対にうまくいく」
 彼はそういうのだけれど、私のことを<君>だなんて呼んでほしくない。だいたい今までは<君>だなんて使わなかったくせに。
 「もう少し飲むかい?」
 そうやって彼は自分のモヒートに手をやるわけだけど、果たしてカクテルを手にしているところを見るのが初めてだ。彼はいつもビールかウォッカライム。私ばかりがいつもモスコミュールごときでフニャフニャに酔ってしまう。
 「またモスコミュール?」
 またモスコミュールなんだけど、私は今日そんなに酔っぱらうつもりはない。まだ二杯めだけど、明日朝イチでちょっと大事な会議があるのだ。珍しく「私企画」のプロジェクトだ。最近は補佐ばかりだったのでかなりはしゃいで下準備をした。もう完璧。だからプレゼン前日にも関わらず彼の誘いに乗ったのだ。前祝いみたいなものだ。
 「あまり酔うつもりはないって、そんな、酔わせるつもりはないよ」
 酔わせるつもりはないよときた。酔っぱらわないくらいなら酒なんて飲むな、は誰の言葉でしたっけ。
 「君と恋がしたいな、の答えが聞きたい。あまり答えを求めているような言い方じゃないけど」
 私は彼とはセックスだけで繋がっている。彼がどうかはよく知らないが、私は恋とか愛にのめり込めないところがあって、一度も真剣に誰かを好きになったこともないし、愛したこともない。異性に興味がないだけかもしれないと思って色々試したが、やはりどちらかというと男性の方が好きだし、だいたい性欲自体はある。男性の性器が入ってくるのを想像しただけでもうたまらない。でも、誰か特定の異性を思い浮かべたり、芸能人や映画スターが好きだったりすることはない。自分でもよくわけがわからなくなってしまうが、これは受け入れなくてはならない事実のようだ。
 辛くみえるかもしれないが案外そんな事もなく、セックスだけって男性は得意なのか、イヤ、私が巧くやっているのもしれないが、相手には不足しないし、たまにはお金にもなるし、二度三度抱かれると良い食事にもありつけるので、ずいぶん良い思いもしていると思う。
 「・・・・・・・」
 え?
 「だからつまり答えはノウってこと?」
 そうね。恋とか愛って私には向いてないのよ。あなたのモノだけが私には必要なの。もう行くわ。


Copyright © 2004 マーシャ・ウェイン / 編集: 短編