第21期 #15
街へ向かう夜行バスの中、鉄は5円玉を放り上げ、両手で挟みこんだ。
「銀、裏か表かどっち?」
「うーん…日本国って書かれてる方」突き出された手の甲を眺めながら、銀は面倒臭そうに応えた。
「さあ今度こそ当たるかな?」鉄が口でドラムロールを真似ながら上の手を除けると、稲穂のある面を上に向けた5円玉が現れた。「さすが裏読みの銀、20回連続で外すなんて」
「何だよその『裏読みの銀』って」
「この前のテストだって、2択問題は全滅だっただろ?」
「あれは答案用紙を間違えて…」
「まあテストはさておき」制服の衿を直しながら、鉄は応えた。「コインの裏表でも分かれ道でも、お前の予想は常に外れるから、『裏読みの銀』って呼んだんだけどな」
「声が大きいぞお前は、他の客の迷惑になるだろ」
「いやぁ修学旅行以来の長旅なんで興奮しちゃって」
「明日も同じバスで帰って、そのまま学校へ行くってこと忘れるなよ」銀は憮然とした表情で、ポケットから喉飴を取り出し、口に放りこんだ。
「ああ、今日はこれで止めるから」
鉄は5円玉を腰の巾着袋に入れ、シーツを拾い上げた。その様子を見た銀は軽く目を閉じ、眠りの世界へと入ろうとしたが、直後、鉄の声が銀の耳に飛びこんだ。
「『トトで1億円』かー」鉄は読書灯を点け、スポーツ新聞を読みふけっていた。「トト…サッカーくじ…そうだ!」
鉄はシーツを床に下し、新聞で銀の肩を叩いた。
「そうだ、街着いたらトトやろう、トト」
「何だ?トイレに行くのか?」
「サッカーくじだよ」鉄は目を輝かせながら、新聞の記事を銀に見せた。「お前の裏読み能力を使って、チームの勝ち負けを予想するんだ。それを書いて出せば、俺らは1億円のお大尽だ」
読書灯を手で遮りながら紙面を眺めていた銀は、暫くの後、ぼそりと呟いた。
「引き分けがあるだろ」
「へ?」
「トトは勝ち負け引き分けの3択だろ?俺は3択のことは良く知らん」銀の読書灯を消しながら、銀は応えた。「それに年齢制限があるから、俺らは買えないだろ」
「た、確かに制服着てたら言い訳出来ないよな」暗がりの中で口を尖らす鉄の手に、小さな塊が投げ込まれた。
「疲れてるんだよお前は、喉飴舐めて寝ろよ」
銀は頭からシーツを被り、鉄に背中を向けた。鉄が指先の喉飴を眺める中、バスは街へ続く高速道路を静かに突き進んでいった。