第209期 #7
何度も同じ時を繰り返す。
幼い頃の暮らしは毎回異なる。親きょうだいに祖父母と親戚のいる大家族のなかでもまれることもあれば、ただひとりの親と密な関係を築くこともある。楽しい時間も辛い時間もあるが、その頃の感覚はたいがい朧でどうでもいい。
そして、出会う。その瞬間に景色が変わる。世界が変わる。
おまえだけが際立って見える。
最初から好意をもつばかりではない。けれども、心は囚われる。怒り、憎み、哀れみ、目が離せないと思い。
恋しく思う。
気持ちが定まってからはいつも同じだ。生まれてきたのはただ、おまえに出会うためだ。今度は間違えない。愛しさをはき違えない。追い詰めない。振り回さない。ただ、優しくする。したい。
いつも同じ過ちを繰り返すのは、おまえが心を開くことが絶対にないからだ。
おまえの瞳はいつも憤怒に彩られる。睨みつける。脅える。涙を流す。
そして、何度繰り返してもおまえが口にする言葉はいつも同じだ。
「おまえを愛しく思うことなど絶対にない」
おまえを手に入れるために搦め手を使う。力を行使して婚姻にもちこむ。既成事実を積み上げて追い込み攫う。おまえは涙を流し、蔑み、うんざりしながら、繰り返し言う。
「おまえに気持ちを許すことなど絶対にない」
それでも繰り返す。今度こそ逃がさない。今度こそ気持ちごと手に入れる。気持ちがなくてもせめて添い遂げたい。老いて命が尽きるまで一緒にいたい。
いつも間に合わない。何度もおまえの死に遭遇する。暗殺される。謀殺される。事故で命を落とす。自らその命を絶つ。
いつも、いつでも、気持ちがないはずの私の命と引き換えに。
愛しいおまえの骸を抱いて号泣するたび、同じ誓いを立て直す。今度こそ間違えない。失敗しない。おまえを見つけて大事にする。そこに気持ちがなくてもいい。理不尽な力でおまえの命を奪わせない。今度こそは。今度こそは。
いつも同じことを繰り返す。
性別を違えてもみた。年齢差を変えてもみた。民族を変え、国を変え、種を、時代を、世を、すべてのステータスをひとつずつ変更して、同じ時を繰り返した。
なのに、おまえを助けることができない。おまえは必ず私を守って命を落とす。そして虫の息で言うのだ。おまえと出会ったことがすべての過ちなのだと。
過ちになどさせない。
何度も同じ時を繰り返す。ぼんやりと子ども時代を過ごし。
また、おまえに出会える日が来る。