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第209期決勝時の、#7ハッピーエンド(たなかなつみ)への投票です(1票)。

2020年3月7日 22時13分31秒

『分からず屋、あらためまして』は、真贋と美醜が並列に語られることが気にかかった。お加代は誰かの贋作なのかといえばそうではないし、そういう話なら現代の整形の是非の議論に絡めた物語のほうがフィットするのではと思った。お加代は最初から最後までお加代だ。作品最後の「安くて良い品ばかり揃っている」というのも一見お加代を掘り出し物として見出したことで店主の審美眼が変わったことを言っているように思えて、その実お加代にはそれ相応の価値を見出していないとも言っているようである。お買い得な品ではなく、値段はあくまで高く、しかし実用性があり玄人好みの骨董品を置くべきではないだろうか。とにかく、流れるような文章で、内容はするりと入り込むが、立ち止まって考えると不自然だと思った。


再読性、中毒性の高さで言えば『ハッピーエンド』が強い。よくよく読み返してみると本文中に唯一登場する「ステータス」という単語で、一気にゲームっぽくなってしまって、全体の温度が下がってしまった。ただ、これも作者の仕掛けなのかもしれないと再再読くらいで思うようになった。ハッピーエンドの対はバッドエンドで、この言葉は分岐の多いゲームなどでしばしば耳にする。数えきれないバッドエンドの試行ののちに、いつかハッピーエンドにたどりつくという、デジタルな解釈ができ、そう考えるとまどろっこしいくらいの熱い文章が違う意味を帯びてくるようだ。幾たびかの読書試行ののち、この作品には私なりの『ハッピーエンド』を見出すことができた。

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