第200期 #4
右側を歩け、と言われて従わなければ笞打たれた。右手を使うな、と言われて従わなければ笞打たれた。何も言われない時は打たれなかった。私は何も言わない父を殺した。父は殺される理由が思いつかないという顔をしていたが、私にはたくさんの理由があった。
父は悪党だったから犯人探しもされなかった。私はしかし住み慣れた町を離れ、私が知らない、私を知らない土地を目指した。春をひさいで稼いだのは短い間で、身が持たないとわかってからは工房を訪ね歩いた。始めに拾ってくれたのが荒物屋で、ここでずいぶん手先が器用になったが実入りが少ないので金物屋に乗り換えた。ここでは刃物の筋がいいと褒められ、しばらくして刃物を専門に扱う所に引き抜かれた。お前はなってない、筋が悪い、と罵る連中から木偶を装い技術を盗み、ここにこれ以上望めないとわかると逃げ出し、私が知らない、私を知らない土地を目指した。
さんざん名前を変えたが工房を始めるにあたって一つに定めた。何年かして暮らしも落ち着き、弟子と伴侶を得た。しかし子を持ち、その子が成長していくにつれ、父を殺す夢を繰り返し見るようになった。目覚める度に父の殺し方を思い出し、しかし理由はまったく思い出せず、それは五番目の子が産まれる日まで続き、それからも理由を思い出せないまま父の殺し方を思い出した。私はその手で子たちの世話を焼き、その目で子たちを見守った。落ち着いていた。しかし弟子が、あんた体売ってたんだってな、と言った。竦んで何もできなかった。私は弟子を父と同じ殺し方で殺し、私が知らない、私を知らない土地に逃げた。
体を売って稼げたのも短い間で、小さな金物屋の下働きに収まり、独立を促されたところを頼み込んで居座ると親子ほど年が離れていたが夫婦という体裁にしてもらった。何年かして新しい名前に馴染んだ頃、子を孕んだ。彼は私を追い出さなかった。その子が成長していくにつれ、また父を殺す夢を繰り返し見るようになった。そして目覚める度に父の殺し方を思い出し、しかし理由は思い出せず、美酒を振る舞われ、目覚めると、三人の男と三人の女が何も言わずに目の前に立っていた。また目覚めると右手に血濡れの鎌を握り全身血塗れ、部屋中に動物の肉片と臓物が散らばっていた。見知らぬ男女は姿を消していて、私は夢を見たのかもしれず、しかし理由を説明できないが、父を殺した理由なら一つ一つ挙げられる気がした。