第20期 #2
国家間の最終的解決にジャンケンが採用されたことに関しての資料は何も残されていない。今ではそれが当然になっているし、何よりわたしがその「ジャンケン役」を務めるとあっては、穿った考えを頭に入れるわけにもいかなかった。
わたしたちの国は今、大洋を隔てた先にある大国と「ジャンケンする」状態にまで関係が悪化していた。資源を出し渋り、間違った駆け引きを仕掛けたわたしたちの国は、大国主義の気紛れに引っかかってしまったのだ。どちらも愚かだけど、それでもわたしは、追い込まれたこの国を救う側に立たなければならない。
第一回のジャンケン日がやってきた。ジャンケンは五回勝負、一年かけて行う。勝ち越せば有利な内容を相手に突きつけることができるし、その上限は勝利数で上下する。
相手国のジャンケン役はいかにもやり手という印象の男だった。見た目以上に大きく見せる品格、精悍な顔立ち。
各国の報道陣、両国の首脳陣を脇に置いて、わたしとその男は壇上へ進んだ。国を左右するにはあまりに簡素な卓を挟んで対面する。
「よろしく」
男は差し出した手の上で、これからスポーツの試合でも始めるかのような笑みを浮かべていた。
「ええ、よろしく」
わたしも慌てて返すが、取り繕ったみたいに不自然なものだった。先手を打たれてしまった。
開始のブザーがざわついた開場を静める。見た目にはわからない異様な緊張感が一気に広がる。
「じゃん、けん」
「ぽん!」
グー。
パー。
勝った。
でろんと空気が緩む。報道陣は自社に報告するため一斉に開場をあとにし、わたしの国の首脳陣は飛び上がって喜びたいのを必死に堪えているようだった。わたしも取り敢えず胸をなでおろす。その時、壇上を去る男の背中が、つまみ食いをめぐる勝負に負けたくらいにしか感じていないような印象をわたしに残した。
そのわけは、二勝二敗まで縺れた最終戦で明らかになる。
初戦を含めた最終戦までの彼の手は以下の通り。
グー ×
グー ○
グー ○
グー ×
……そう。彼は「グー」しか出していないのだ。
「よろしく」
恒例となった握手を交すわたしたち。
「ええ、よろしく」
開始のブザー。
わたしは彼の表情を読んだ。
彼は、これから悪戯を仕掛ける子供のように笑っていた。
…………。
「じゃん、けん」
「ぽん!」
グー。
……グー。
あいこ。
彼が笑った。
わたしも、笑った。