第20期 #3
「ねぇアツシ、ピンク嫌いじゃなかった?」
「え、何で?」
正直、ヤバイと思った。
アイのものは全部片付けたはずだった。押入れの中に。
「だって“ハブラシ”・・・。」
そう言って彼女、ユイは風呂場の横の洗面台を指差したのだった。
アイはいつの間にハブラシなんか・・・。
透明なグラスに入る青とピンクのハブラシ(しかもお揃い)は、俺の焦りをあざ笑うかのように日光に綺麗に反射していた。
あぁ・・・俺としたことが。
この『二股』は完璧だったはずなのに。
「あ・・・あぁ。前のが古くなっちゃって、買いに行ったらピンクしかなくてさ。」
「その割に・・・どっちも新しいみたいだけど。」
彼女は洗面台の所まで行き、その2本のハブラシを手に取った。
そして、ゆっくり下の方に目をやった。
彼女が見たのはごみ箱で、そのごみの中の一番上には、ほんの数日前まで俺が使っていた青色のハブラシが無造作に捨てられていた。
アイの奴、俺が浮気できないようにこんなことしたのか?
ハブラシが2本って言ったら・・・『同棲』してるって思われるじゃねぇか。
畜生。細かい細工するなっての。
「誰かと住んでるんじゃないの?」
「ま・・・まさか。」
俺は思わず一歩、後ずさりをする。
「だって2本のハブラシでさぁ・・・しかもアツシが嫌いなピンクだよ?ピンクが好きな彼女なんじゃないのぉ?」
ユイは口を膨らまして言った。
「違うよ!間違ってもないよ。俺は・・・2人の人と付き合うなんて、器用なことできないからさ。」
そう言って、俺は自分の頭を掻いた。
もちろん、これは演技であって、俺の放った言葉も全てが嘘だった。
アイにもユイにも悪いとは思っているんだけど。
「ホント?」
「・・・うん、ホント。」
そして俺は得意なはにかんだ笑顔を見せる。
「もぉ、しょうがないなぁ。信じる、信じるよ。」
ユイは呆れたように言って、そして俺の唇にキスをした。
「ありがと。」
俺は彼女をそのまま抱きしめた。
胸をズキズキ言わせながら。
ユイが帰って、1人でぼーっと考えていた。
いつまでこんなこと続けるんだろうか。
嘘ついて、2人と付き合ってるなんて。
実際、今はアイもユイも好きだ。
卑怯すぎる俺と、2人は一緒にいてくれてる。
俺は2本のハブラシを見つめ、つぶやいた。
「そろそろ・・・ケジメつけねぇとな・・・。」