第196期 #8
渡されたのは細かい間仕切りのある箱だけで、今後与えられるものすべてをそこへ入れていけばよいのだと理解した。何の変哲もない白い箱を目の前にして暫し途方に暮れるが、与えられるものを片づけさえすれば罪から逃れられるという恩赦に縋り、初日は眠る。
仕事は当初はあくびが出るほどに緩慢で容易なものだった。一日のうちに与えられるものはほんのわずかなうえにちっぽけなものだったので、深く考えずに空っぽの箱のなかへ放り込んでいくだけだった。むしろ空いた時間があることが憂鬱でたまらなかった。考えたところでもうどうしようもないことを繰り返し考え、それについて今の自分にできることは何ひとつないことを再確認しては胸が抉られるような心もちがし、涙を流し続けた。
やがて、自身の無能をいたずらにいたぶって愛でるという無為な時間潰しが不可能になるほど、日々の仕事は忙しくなっていった。
まず、与えられるものの量が増え、それぞれが複雑な形状で嵩張るものになっていった。箱にはまだ余裕があるので分類表を作成し、それに従って詰め直すことで難を逃れた。
けれども、それでは追いつかないほど、日々、仕事は忙しくなっていった。
与えられるものが日に日に増大し、複雑さを極めていく。毎日のように分類表を作成し直し、せっせと箱のなかに詰め直していく。一分の隙間も出ないように入れ方に工夫に工夫を重ね、知恵では足りなくなった分は力任せに詰めに詰め込んで。
日々新たに分類表を作成し直し、与えられたものすべてを箱のなかへ押し込めていく。その間も次から次へと本日の残り分が新たに与えられ、箱のなかへ詰める作業が増えていく。分類表を煮詰め直す余裕はなくなった。与えられたものを考える暇なく流れ作業のように箱の上へ重ねていく。次から次へと本日の分が与えられ、次から次へと上へ上へ重ねていく。機械的にそうする。追い立てられ焦りながら、せっせせっせと積み上げていく。
すでに分類表は擦り切れて役に立たなくなっており、間仕切りも消滅した。細く高く聳える不安定な塔は、考えなしにそれを積み上げていった者をもやがて呑み尽くして倒れてしまうだろう。そんなことはわかっている。それでもせっせせっせと積み上げていく。
その塔を造りあげてしまったことこそが己の罪だとは最期の瞬間までわからぬままに。