第192期 #8

小説機械

 SF小説のような話になってしまうが、私は小説を書く機械である。小説機械というと、テーマや登場人物などの条件を与えると自動的に小説が作成されるという従来のタイプを想像する人も多いだろう。しかし私の場合は、与えられる条件が無く、すべてを自由に書くことが求められる特殊なタイプの機械なのだ。だから必ずしも人間が読みたいものを書けるわけではないし、話が脱線したり、いつまで経っても終わらないこともある。

 そういえばこの間、近所の子どもが訪ねてきて夏休みの自由研究を手伝って欲しいと頼まれたことがあった。自由研究とは自由に研究の題材を決めて取り組むものであり、その子どもは、自由に決めていいと逆に何をやっていいのか分からなくなるということで悩んでいたのだった。自由に対する悩みは私も同じだったので、私と子どもは、とりあえず縁側でスイカを食べながら種の飛ばし合いをしてその距離を競うことにした。ちなみに私は人間とそっくりの姿をした機械なので、スイカを食べたり人と直接喋ったりすることが出来るのである。なぜ人間そっくりの姿に造られたのかというと、小説を書くためには人間としての経験が必要じゃないかと私の製造者が考えたからだ。なので私は、機械でありながら学校へ通ったり、友情や恋を経験したこともある。学校のみんなは私が機械であることを知っていたのだが、私が人間の姿をしていたせいか、友情や恋心を示してくれた子も何人かいた。そして私のことを好きだと言ってくれた女の子とはデートをしたり、性行為に及びそうになったこともあった。彼女は、人間か機械かなんて関係ないと言って私を抱きしめてくれたのだ。しかし、そのことを知った製造者と学校側からストップがかかってしまい、私は学校を退学させられて、彼女との関係もそれっきりになってしまった。

 私は小説を自由に書くことを人間に求められてはいるが、すべての行動の自由が認められているわけではなく、そこには機械としての限界があるのだ。しかしそれもまた人生であるし、もしすべてが思い通りになったら、小説に書くことが無くなって私は困ってしまうだろう。ところで言い忘れていたが、私が今いる場所は南極であり、縁側の向こうには白い氷原が広がっている。スイカの種飛ばしに飽きた子どもはペンギンを氷の上で滑らせるという遊びを思いついたようで、自由研究の悩みなど初めからなかったようにはしゃいでいる。



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