第18期 #12
どういった縁に当たるのかよくは知らないのだが、親類の集まりで年に数度決まって顔を合わせる、遠い血縁らしき人がいる。見るからに年齢が近く、また二人とも下戸であるため席を並べることが多く、会えば互いの近況を遠慮がちに語り合う仲である。
滅多に口を利かない人なので自然とこちらの口数が増えるのだが、不自然な間合いで、
「そろそろ」
とだけ言い残して去ってしまうことが幾度か続き、かといって私の話を特別迷惑がっているようにも思えなかったので、ある時思い切って尋ねたことがある。
「君が無口だったり話を途中で打ち切ったりするのは、何か理由があってのことなのだろうか」
彼はしばらく黙ったまま何と言ったものかと考えていたようだったが、ようやく口を開いたかと思うと、やはり言葉少なに答えた。
「言葉を節約しているのです」
「それは、話すのが億劫だということかい」
「いえ、聞く、話す、読む、書く、考える……すべての言葉を節約しているのです」
「なぜ」
「何となく、無駄遣いしない方がいいかと思いまして」
今度は私が、何と言ったものかと考える必要があった。至って陳腐な感想が、自然と口をついて出た。
「そういうものだろうか」
「さあ。ただ、年々少しずつ、減ってはいます」
「まさか」
余計な言葉を吐かせまいと気を回したのか、彼は片手で私を制すると、もう一方の手で、シャツの胸ポケットから薄い手帳を取り出した。
そこには、彼が触れた言葉の数とおぼしき数字が、一日ごとに、小さな字で延々と書き連ねられていた。最後の頁には月ごとの集計がグラフ化されており、確かに右下がりの軌跡を描いていた。
どういった基準で数えているのかを、敢えて問う気にはならなかった。何の役にも立たないことを何年も続けている彼の精神力に、ただ恐れ入ったというのが、正直なところだった。
「不便なことは無いのかい」
「人付き合いが」
「そりゃそうだ。他には」
「本を読んだ後に、感想を手短に抱く必要があります。……では、そろそろ」
おそらくは、言葉を使い過ぎたと気付いたのであろう。彼はそそくさと部屋を出た。
いつか言葉がゼロになり、彼は消えてしまうのではないか。私のくだらない予測は今のところ現実のものにはならず、件のグラフは緩やかに右に下がり続けている。
親類の集う機会は減りつつあり、彼は相変わらず寡黙だが、それでも私たちが交わす言葉は、不思議なもので減っていないと聞く。