第18期 #11

朗読屋

埼玉のあるデパートの一隅に児童図書館がある。文化事業として、図書館会社を誘致。職員の優子は童話を朗読。その声は子どもを虜にした。あるときの朗読中、泥酔した女が闖入し優子の顔に嘔吐。優子は女を殴る。後日、優子はひとりで痛飲。結果、卒倒して病院へ。担当医は過日の嘔吐女。優子も嘔吐。女医が始末。優子も苦笑い。女医は志穂といった。うわばみのふたりはすぐ打解ける。志穂の闖入は優子の心地よい美声に誘われたもの。優子の朗読は病を癒すのではないか、と志穂は病院での朗読会を依頼。諾した優子は朗読会を始めた。すぐ会は盛況となり、患者は癒された。優子は休みなく童話を読み聴かせた。そして帰って大酒を飲む。あるとき、児童図書館に一ヶ月以内で撤退の話が浮上。デパートの若社長、伊東洋が主張。居場所の喪失を憂慮した優子は一計を案じた。一ヶ月後、有料朗読会を開催し一千万円集めたら、撤退要求は撤回されることを提案。洋は承諾。それから図書館では優子の有料朗読会を大きく告知。当日人は続々と集まり、立錐の余地もない。が、あと一万円が足りない。定刻に現われたのは洋。洋は恥も外聞もなく算盤を弾いたのだ。壱万円札を差し出して継続を要請。意図を見抜いた優子はにこやかに歩み寄ると、洋の股間をひざ蹴り。洋は悶絶。会場を後にして、優子は吐血。志穂が病院へ担ぎ込む。一命は取りとめたが、少し良くなると優子は自宅療養の病人のために何度も病院を抜け出した。依頼先のおじいさんが安らかに亡くなるのと同時に優子も倒れこむこともあった。志穂は優子を抱きかかえ、朗読せずにはいられない優子をいとしく思った。のちに優子はやっと退院するが、無理からのどをつぶしていた。児童図書館すでには撤退、戻るところはない。優子は紙芝居屋となり夕暮れの街を彷徨う。誰も寄らない優子のそばで、だみ声で語られる童話に耳を傾ける志穂がいた。



Copyright © 2004 江口庸 / 編集: 短編