第18期 #10
それは、朽葉色をしていた。
虚空を飛翔する宇宙船はある小惑星の調査を終え、地球へ向かっていた。乗員の一人がパネルを見て重量オーバーに気付いた。このままでは地球に辿り付けない。誰かが密航したのだろうか。
「密航者を廃棄しよう。法律でそう決められている」
この宇宙船の乗員は四人でうち一人がアンドロイドだった。
「アンドロイドがいないぞ」
「あいつは死んだよ」
乗員たちは必死に記憶を辿った。小惑星から連絡が途絶え自分たちが調査に行った。そこでは希少金属が発見され数十人の採掘労働者が働いていたが全員死亡していた。遺体は一箇所に集まり朽葉色のヒラタケのようなものが一面に生えていた。サンプルを採取し離陸後、重量オーバーに気付いてやむなくアンドロイドを廃棄した。
では、いまだに重量オーバーしているのは誰のせいなのか。乗員たちは顔を見合わせた。みなよく知っている者同士のように感じられた。乗員たちは家族や地球の思い出を話し合った。
「おれの妻はアンドロイドなんだ。妻にはお気に入りの人格を複数インストールしてある。いずれ学習によって人格が統合されて、その過程で錯乱したりする危険があるから、本当は禁止されているのだが」
「待て。地球ではアンドロイドを妻にすること自体が禁止されている」
「なぜおまえが知っている」
「なぜってそれは――」
百億の人口。過密な地球で生まれたおれは貧しかった。金になることならなんでもやりどこへでも行った。とうとう銀河の果ての小惑星で岩盤掘りさ。
「おかしい。全員が宇宙飛行士のはずだ」
「それに、おれたちは一度も地球に行ったことがない」
「おれたちは辺境の植民惑星の人間で、さらに離れた小惑星に行ったんだ」
地球へ行かなければならない。そのために不要なものはすべて廃棄しなければならない。アンドロイド、そして船の操縦部とエンジン部以外をすべて取り外せ……。
「やめろ! この船は地球に向かうべきじゃないんだ!」
自爆スイッチに手を伸ばした乗員の背後から、全身に朽葉色の茸を生やした乗員たちがしがみついてきた。なぜか懐かしいような感じがこみ上げてきて……。
朽葉色のそれの中で複数の人格が次第に統合されていく。人格の枠組みが曖昧になり記憶が交じり合う過程で一時的に不安定になり葛藤が生ずる。けれども時間の問題だ。統合――それだけが朽葉色のそれの目的だった。より大きな――百億の統合へ――地球へ……。